保育を仕事にする対応義務者のための保育の事故のリスクマネジメント

2015年8月22日

 保育を仕事にする者(保育所職員や幼稚園教諭、そして保育ママやベビーシッターなど)は、保育の利用者と保育の契約を結びます。保育の契約を結ぶと、保育をするにあたって、子どもの事故に対する法的な注意義務や安全配慮義務が発生します(※)。しかし、どれだけ安全に配慮しても事故は起きるものです。もし事故が起きたら、死亡するといった重大な結果を向かえないように、適切に対応する役割をもつ「対応義務者」でもあります。

保育事故で最も問題となる債務者の義務は、安全配慮義務です。(中略)子どもの生命、身体、財産といった権利、利益を侵害することなく安全にサービスを提供することが求められています。
出典:事例解説 保育事故における注意義務と責任(新日本法規:古笛恵子編著)

事故とは「人智を尽くしても、なおかつ避けられない事故(Accident)」と、「本人が意図しない外的な要因によって身体的に悪影響を及ぼす、対策することで避けられる事故(Injury)」とがあります。前者のアクシデントを適切に対応することはもちろんのこと、後者の、対策すれば避けられる事故について、防止策を保育現場で仕組化することが求められています。

対策すれば避けられる保育の事故のリスクマネジメント

 特に、対策すれば避けられる保育の事故の防止策を仕組化していくには、まずなによりも保育者の思い込みを捨てることが大切です。たとえば昼食時をみると、ご飯を食べている子どもの行動をきっかけとして窒息事故が起こります。

昼食をふざけながら食べない、口にモノを入れたまま席を立たないのは、お行儀よく食べるという教育的な意義のほかに、話す、席を立つ(運動する)と呼吸が活発になって、モノを飲込むときに、普段であれば自然に閉じるはずの、気道と食道とを隔てるフタ(喉頭蓋 ※)が、強制的に開いて誤嚥が起きやすくなる状況を防ぐ意味もあります。

出典:解剖生理をおもしろく学ぶ(増田 敦子著)

対応が違わないようにリスクコントロールを共有する

子どもが静かに座って食べることの意義を、教育だけで考えていると、昼食に付き添う保育者個々の、子どもへの受け止め方しだいで、思いどおりにならない子どもに対する対応が変わることが予想されます。「一度でマナーを覚えこませる必要はない」と思った瞬間、子どもを見守る理由がなくなり、子どもから目が離れて事故への対応が遅れます。

子どもへの働きかけの目的について、その一面だけを見ていると、食事どきの窒息事故のように安全対策がおろそかになることがあります。保育にあたっては、子どもの命にかかわる重大な結果にいたる、プロセスの理解が欠かせません。保育者個人の経験則に関係なく、子どもの個性に関わりなく、保育の安全対策について統一できることが望まれます。

予防から事故後の応急手当までを一体的に備える

 予防についての対策はしていても、食事であれば、ノドに詰まらせるという事故を100%無くすことはできません。静かに座って食べているなと思っていたら、詰まらせて動くことも叫ぶこともできずに固まっていたという報告が数多く保育現場から報告されています。

気道内異物の除去は背中を強く叩く、お腹を突き上げますが、集団保育であれば、患児の応急手当てをする前に、ほかの子どもの安全を確保することも忘れてはいけません。子どもたち全体の安全を確保することは、迅速に応急手当てをすることにつながります。

保育現場に適した子どもを救える応急手当を学ぶ

胸を押すだけの心肺蘇生法が広がっていますが、「突然目の前で倒れた意識がない人、特に大人」への対応方法という条件があることは知られていません。訓練を受けたことがない人や、子どもと関わりない人の応急手当ともいえます(※)。保育を仕事にする対応義務者としては、人工呼吸をふくむ救命処置法を日ごろから学んでおくことが求められています。

訓練を受けていない市民救助者は、胸骨圧迫のみのCPRを行なうべきである。(中略)なお、窒息、溺水、気道閉塞、目撃がない心停止、あるいは小児の心停止では人工呼吸を組み合わせたCPRを実施することが望ましい。
出典:JRC(日本版) ガイドライン2010(確定版)「一次救命処置(BLS)」

人工呼吸は訓練なしにできるものではありません。また、マネキン人形に向かって覚えた胸の押し方や息の吹き込み方は、実際に子どもが生活する場で、生身の子どもを助けることの、ごくごく一部でしかないので、保育スペースに存在する複数の子どもや物理的環境を生かしながら、責任をもって実施できるものへと、自ら変換することも大切です。

保育の事故対応を組織的に仕組化する

 ベビーシッターや保育ママは、救急隊が到着するまで、ひとりで高度な対応を求められます。また保育園や幼稚園では、子どもたちが集団化した中で事故が起きて、職員が集団を統率しつづけながら、事故後の対処を同時に行わなければ、子どもひとりの命ばかりか、二次災害・三次災害を防ぐことはできません。

保育を仕事にする対応義務者の手による、保育の事故への安全対策や救命処置は、保育者の個人的な使命感といった、個人によって不確かで重みの異なるもので子どもの命を背負いこむのではなく、保育者としての専門的知識と、質の高いスキルの習得とともに、組織一丸となってシステマチックに取り組めるように対応方法を仕組化することが大切です。

安心を感じてもらえる、安全な保育をつくっていきましょう

注意義務には説明責任も伴います。事故が起きたら、いつ、どのようにして事故が起きて、どのように判断したのか。保育者が対応したことで、どのように変化して、今、子どもはどのようにあるのかといった「事実」を関係者に報告します。特に時間の記録と報告があることで、病院に搬送されたときに経過が明確になって適切な治療につながります。

安全はつくるもので、安心は利用者に感じてもらうものです。安全で、のびやかに過ごせる環境で保育をする。そして小さなケガや体調不良も報告までを適切に対処することで、預けてよかったと利用者に納得感と安心をもたらします。迎えにきた利用者の笑顔と、子どもの笑顔を引き合わせられる保育者としての大きな喜びを、さらに確かなものとするために保育のリスク管理を学んでくださることを願っています。

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保育安全のかたち

代表:遠藤/専門:保育の安全管理・衛生管理/保育事故の対策、感染拡大の予防、医療的ケア児ほか障害児の増加など医療との関わりが深まる一方の保育の社会課題の解決にむけて、保育園看護師の業務改革ほかリスク管理が巧みな保育運営をサポート

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