保育施設のお正月行事で子どもとお餅を食べる際に最低限抑えておくべき安全確認ポイント

2016年1月4日

2016年の元日も高齢者を中心とした窒息事故が複数件起きました。高齢者にとってお餅は危険ですが同様に幼児期の子どもにとっても最も危険な食べ物のひとつです。保育施設で安易に食べさせているとは言いませんが、「食文化の継承」を理由にお餅を食べさせるのは止めるのも大切な選択肢といえるほどです。お餅が子どもにとって危ない理由は「事故が起きているから」というだけのものではありません。お餅という食べ物と、子どもの体の仕組みにかかわる問題です。

子どもがお餅をおいしく食べるには、まず安全であってこそです。お餅を小さく切る調理方法だけで解決はできません。その条件が整わなければ保育者は安全に配慮する立場として止める選択肢を持つ必要があります。安全で、たのしいお餅つき行事を保育施設で迎えていただくために、あらためてお餅による窒息事故の背景を振り返りながら、保育者が知らなければならない子どもの「咀嚼」や「嚥下機能」といった食べる際にともなう体の仕組みについて見ていきます。

元日の1日、餅を喉に詰まらせる事故が相次いだ。東京都内では、11人が病院に搬送され、80代の女性が死亡した。(中略)東京消防庁は、餅を小さく切って、急いで飲み込まず、ゆっくりとかんでから飲み込んでほしいと、注意を呼びかけている。
出典:朝日新聞(2016年1月1日22時53分)

お餅に限らず窒息事故の救護件数は子どもが5分の1を占める

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「高齢者にとって危険」という言葉が躍っています。以下のような東京消防庁の発表を見てみても全体に高齢者が食べ物をノドに詰まらせて重症化する割合が圧倒的に高いことが判りますが、救護件数でいえば10歳未満の子ども(特に4歳以下)の数がとても多いことが見られます。一般社会に限らず保育施設でも食事時間は重大事故が発生しやすいことが知られています。

出所:東京消防庁「食品による窒息事故の発生状況等について」

保育所保育指針や教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドラインは、保育施設で特に重大事故が発生しやすい「睡眠中、プール活動・水遊び中、食事中等の場面」の安全対策(事故防止)の実施を求めているため、実際はお餅に限った話ではなく、子どもの栄養を考えたおいしい食事を、いかに安全に食べるかについての見直しが必要です。

お餅を頬張る子どものひと口量に注意する

食べ物のノド詰まりによる窒息事故の防止にあたっては何より食べやすさが大事ですが、食べ物が何かに関わらず子どもが食べる際に問題なく飲み込める分量が判断できずに、調理時の食材の大きさにも関係なく口の中に食べ物をほお張りすぎて結果として窒息するケースにも注意が必要です。以下では5歳児であっても、ひと口量に大きなバラつきがあることが判ります。

出所:食品安全委員会「食品による窒息事故に関するワーキンググループ」まとめ案

お餅は弾力性が高く、場合によっては膨張し粘着するため口に入れて問題なく飲み込める量の見極めはとても大切です。しかし子どもたちが食べるひと口ひと口の分量にはばらつきが認められるため危険性が高いことが判ります。食べる前に子どもたちと安全な食べ方について教えるだけでなく、保育者が介助することによって口に入れる量のコントロールも必要でしょう。

お餅の大きさだけでなく咀嚼と嚥下の働きに注目

 一律にお餅を小さく切っておいたとしても、咽頭と呼ばれるノドの入り口のノド詰まりを減らせるにすぎません。子どものノド詰まりは「誤嚥」(直接、肺につながる気管に異物が詰まること)の配慮も大切です。参考までに子どもの気管の太さを確認すると、想像以上に細いことが判ります。食材が小さいだけで子どもの安全は図れません。食材の大きさは、摂食(せっしょく:噛みくだいてノドの奥から食道へと、食べ物を送る仕組み)の成長具合をセットに考えます。

小児の気管内径は1歳で5mm前後、5歳でも1cm程度と非常に細い
出典:九州病院「気道内異物への対応(呼吸器内科のトピックス)」

保育者は咀嚼(そしゃく)と嚥下(えんげ)機能について理解を深めることが求められます。噛み終えて飲み込んだものは食道を通じて胃袋に運ばれますが、食べ物がその食道を通るのは決して“当然”のことではありません。食べ物が咽頭(ノドの入り口)を越えると気管と食道との分岐点に到達します。その分岐点で気管に向かわせず食道へと入ることを成し遂げているのが嚥下機能ですから、子ども個々の発育具合の違いに応じて介助方法や提供方法を見直しましょう。

食物を認識して噛みくだき(咀嚼:そしゃく)、飲み込みやすくして、口の中(口腔)から咽頭へと食物を送り込みます。その後咽頭から食道、食道から胃へと食物を送り込みます。一連の流れを「摂食・嚥下」

出所:栄養ケア倶楽部 https://www.meiji.co.jp/meiji-eiyoucare/

飲み込みやすいお餅のレシピについて

飲み込みやすさに注目したとき、お餅の温度も問題となります。お餅は冷めた方が粘つきが強くなります。子どもが食べやすいようにとお餅を冷ますと、ノドに詰まりやすくなってしまいます。熱すぎない程度に食べやすくするには、水分も摂れる汁物がおススメです。

出所:食品安全委員会「食品による窒息事故」評価書

汁物にした場合でも、なるべくスプーンの使用は控えた方がいいかもしれません。食べやすく小さくした餅をスプーンですくうと、ツルッと口に吸いこむような流れで丸のみしてしまう可能性が高まります。しっかり噛み進めるのに適した食器の検討をお願いします。

保育施設でお餅をお行儀よく食べる必要性について

 お昼ご飯をふざけて食べないようにする、口にモノを入れたまま席を立たないのは、お行儀よく食べるという教育的な意義のほかに、ふざける、席を立つ(運動する)と呼吸が活発になって、普段であれば嚥下において自然に閉じるはずの気道と食道とを隔てるフタ(喉頭蓋 ※)が、モノを飲込むときも強制的に開いて誤嚥が起きやすくなる状況を防ぐ意味があります。

ノド詰まりの原因をみると調理の方法や食べ方が大きな要因ながらも、このようにご飯を食べる際の子どもの行動も窒息事故のきっかけとなることが判ります。食事のノド詰まり(窒息事故)のように、保育において安全対策しだいで事故を避けられる可能性が高まるような防止策を仕組化していくには、まず何よりも付き添う保育者の思い込みを捨てることが大切です。


(一財)日本病児保育協会オープンセミナー(作画:@seruko

見守る際の対応が常に変わらない仕組みをつくる

子どもが静かに座って食べることの意義を、躾けといった教育面だけで考えていると、昼食を見守る保育者個々の子どもへの受け止め方しだいで、たとえば思いどおりにならない子どもに対する対応が変わることが予想されます。「一度でマナーを覚えこませる必要はない」と思った瞬間に子どもを見守る理由がなくなり、子どもから目が離れて事故への対応が遅れます。

子どもへの働きかけの目的について、思い込みによりその一面だけを見ていると、食事どきの窒息事故のように安全対策がおろそかになることがあります。保育にあたっては、子どもの命にかかわる重大な結果にいたる、プロセスの理解が欠かせません。保育者個人の経験則に関係なく、子どもの個性に関わりなく、保育の安全対策について統一できることが望まれます。

窒息事故以前にクッキング保育の保健衛生を見直す

担当保健所 八王子市保健所
患者関係 発症日時 12月10日午後10時から同月12日午後5時まで
症状 腹痛、おう吐、下痢、発熱 等
発症場所 自宅 等 
患者数 患者総数 41名
(内訳) 男:16名(患者の年齢:3~41歳)
女:25名(患者の年齢:3~60歳)
入院患者数 0名
診療医療機関数・受診者数 19か所 22名(男:7名、女:15名)
原因食品 餅つき会でついた餅(のり、きなこ、あんこ、納豆、ごま)
病因物質 ノロウイルス

出典:東京都福祉局「食中毒の発生について~保育園の餅つき会でついた餅で発生した食中毒~」

正月行事に限らず、食育を目的としたクッキング保育について回るのが、調理員以外の不特定多数が、調理段階の食べ物に触れることで高まる感染リスクです。調理担当になると、少々の体調不良では断りづらいという理由で、無意識に感染源になるケースもあります。

保育施設での集団感染は、きっかけでいえば子どもが感染源であることは多いものの、大規模な感染を引き起こしたケースでは職員が媒介者となって広げた事例も散見されます。体調管理と確認については保育者も徹底した上で、必要であれば行事の延期も仕方なしと誰もが納得できる形で進むように、事前に園内外への十分な情報提供をするのが望ましいでしょう。

感染予防グローブやマスクをつける適当なタイミング

保育施設における感染予防は、主に接触感染と飛沫感染の2つの感染経路を断つように努めることが最も有効です。接触感染を防ぐための手洗いも、まだまだ改善の余地がありそうですし、感染予防グローブやマスクをつけての調理にいたっては進んでいません。

感染予防グローブやマスクの使用にあたっては、ぜひ潤沢な量を準備していただき、食べ物に触れる直前からではなくて、調理に関するものに触れる準備の段階から、子どもひとりひとりに配り終える、その瞬間まで、小まめに取り換えることで効果が高まります。

お餅を食べさせる以上は救急体制は万全に整える

窒息事故の対応については、まだまだ保育者の中で誤解も多く、担任だけでは迅速に対応しきれなかったという報告例もあります。もし知識などについて不十分だと思うところがあれば、まずは保育環境における窒息事故が発生する危険性について見直しみましょう。

行事を準備するにあたって、つくる過程、食べるまでの流れを綿密に打ち合わせるのに比べると、緊急時の対応については、「もし何かあれば、近くの職員にお知らせください」のひと言程度で終わせてしまうことも少なくない印象です。誰が、どこで事故に遭遇しても迅速に同じ対応を行なうため、緊急時の流れについても細やかに打ち合わせていただきたいと思います。

つき立て餅と食べる餅とを分けることは食文化に通じる

お正月のお餅つきは、神様に備える鏡餅をつくるため。お正月にお餅を食べるのは、神様が宿るといわれるお餅を口にすることで、健康になるというように、つき立ての餅と、子どもが食べやすい餅を別に提供することは食文化のあり方として説明がつきます。ついたお餅は大人が消費して、子どもは調理室で調理された食べやすいお餅を食べるのはいかがでしょうか。

高齢者は食べなれた経験から(衰えに気付かずに)窒息事故が起きます。子どもは摂食機能の成長に対して食べ物が合わずに(合わなくて危険であることを判断できずに)窒息事故が起きます。高齢者とは背景が異なるので、子どもの事故要因に合わせた、安全な保育環境をつくっていただき、子どもたちのために、たのしい正月行事を実施してくださることを願っています。

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保育安全のかたち

代表:遠藤/専門:保育の安全管理・衛生管理/保育事故の対策、感染拡大の予防、医療的ケア児ほか障害児の増加など医療との関わりが深まる一方の保育の社会課題の解決にむけて、保育園看護師の業務改革ほかリスク管理が巧みな保育運営をサポート

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