発達と保育リスクマネジメント

保育の事故データベースの事故発生の要因分析の読み方

 内閣府に、「有識者、地方公共団体、事業主代表・労働者代表、子育て当事者、子育て支援当事者等(子ども・子育て支援に関する事業に従事する者)が、子育て支援の政策プロセスなどに参画・関与することができる仕組み」として設置された、子ども・子育て会議内で、平成26年9月9日から開かれた教育・保育施設等における重大事故の再発防止策に関する検討会は、平成27年7月13日時点で第6回を迎えました。

検討会で議論されてきた、「特定教育・保育施設等における事故情報データベース(以下、保育事故のデータベース)」が、この7月に公開されて、認可保育所の事故が8件掲載されました。データベースそのものは、形式や内容など、これから改善されていくことが期待されます。

保育事故のデータベースが素晴らしいものになっても、使わなければ意味がありませんし、実際の使用対象者は、再発防止を行なっていく保育関係者の仕事として引き継がれていく必要があります。そこで今回は、保育事故のデータベースに記載された『事故発生の要因分析』の読み取り方について触れていきます。

保育の事故データベースの事故発生の要因分析とは

 保育事故のデータベースには、事故の報告を行った自治体による「事故発生の要因分析」が掲載されています。要因分析は大きく、ソフト面(マニュアル、研修、職員配置等)、ハード面(施設、設備等)、環境面(教育・保育の状況等)人的面(担当保育教諭・幼稚園教諭・保育士の状況)、その他の5つの項目について、分析と改善策が提示されています。

これは、「SHEL(シェル)モデル」と呼ばれる分析方法です。保育事故のデータベースだけの特別なモデルではありません。航空業界の事故調査に始まった手法で、医療、福祉分野と広まって、たくさんの自治体で取り入れられはじめている手法です。

S :ソフトウエア(Software) 作業手順や作業指示の内容
H :ハードウエア(Hardware) 作業に使われる道具、機器、設備など
E :環境(Environment) 照明や騒音、温度や湿度、作業空間の広さな どの作業環境にかかわる要素
L :周りの人たち(Liveware) 指示、命令をする上司や、作業を一緒に行う同僚などの人的要素

SHELモデルのもうひとつの「L」を明確にする

SHELモデルとは、もうひとつ忘れてはいけない大事な「L」、事故の中心にいた作業者本人(Liveware)を明確にして、その中心となる「L」に対して、先ほどの4つの要素「S・H・E・L」が、どのように当該事故のリスクを高めたのか、具体的に見つめて改善策を導く分析手法です。

作業者という言葉から、すぐに大人(保育の事故では保育者)を当てはめてしまいそうですが、決してそれだけではありません。保育の事故は、子どものあそびの中で起きることも多く、作業=あそびと解釈すると、自らあそびを展開しながら、あそびを通してケガをした事故の当事者(子ども)が、「L」となることも十分にあります。

保育の事故では、後者が多いと考えられます。

保育の事故の子どものミステイクとリスクを導く

 事故の中心にいた作業者本人に、子どもを当てはめたら、改善策の導き方には注意が必要です。子ども自らが、あそびを展開しケガをしたことから、保育現場では、すぐに子どもに対して、「正しいあそび方、使い方」を指導する風潮が、たくさん見受けられますが、これは間違いです。

子どものあそびは、ミスがつきもので、そのミスによってケガをするリスクがついて回ります。保育のリスクマネジメントの目的は、子どもにミスが起きることを踏まえて、子どもの命にかかわる重大な事故結果を招かないように、どのようにしてリスクを小さくするか、検討して仕組化することです。

保育を仕事にする対応義務者のための保育の事故のリスクマネジメント
 保育を仕事にする者(保育所職員や幼稚園教諭、そして保育ママやベビーシッターなど)は、保育の利用者と保育の契約を結びます。保育の契約を結ぶと、保育をするにあたって、子どもの事故に対

指導にあたって子どものミスと違反を明確に定義する

最終的な改善策のひとつとして、子どもへの指導に取り組むことは必要です。しかしリスクの分析もなく、「指導、教育が足りなかったから事故が起きてしまった。指導し直します」と結論づけることは早計です。また、指導の有効性を高めるためにも、ミスと違反を明確に定義をして指導内容を検討します。

決められた事柄に対して、本人が意図的に背く行為を「違反」といいます。ミスは、し損なうことです。やろうとして、し損なった。やってはいけないことは意識できていたが、し損なった出来事について、ミスといいます。

このミスに対して、違反とは意識して犯すわけですから、保育者が指導する意義は大きくなります。しかし違反の場合も、たとえば、ルールに納得できていなかったり、年上の真似(模倣)をした結果という違反があるのも、子どもの事故の特徴のため、一方的な叱責が許されないことはお解りいただけるでしょう。

保育事故のデータベースは改善策の方向性が示されるもの

 事故の防止策とは、ミスが起きてもケガなど損害を招くリスクを小さくする仕組みです。保育の事故のデータベースは、まず「事故の概要」から、事故(防ぐことができていれば、ケガをするという事故結果を招かないで済んだであろう、思いがけず起きた悪い出来事)を区別します。

その悪い出来事の中心人物と、ケガをした子どもとの関係性が見えたら、中心人物が、なぜそういうミスに至ったのか、「事故発生の要因分析」から、ソフトウエア、ハードウエア、環境、周りの人たちの、ミスを起こし、命にかかわる重大な結果を招く可能性を高めた要因を読み取っていきます。

保育の事故データベースを保育者側からパワーアップする事故報告書
 内閣府から公開された保育の「特定教育・保育施設等における事故情報データベース(以下、保育事故のデータベース)」が公開されたことは、みなさんのご承知の通りです。保育の事故データベー

分析の後半はヒューマンエラーが起きる仕組化の穴を探す

防ぎたい出来事を明確にし、どういった事故リスクが、どのようにして高まったかがまでが判れば、そのリスクを小さくするための改善策を導き出せます。実は、ここまでは起きていない事故を予測し、その対策を打つための手法です。これにヒヤリハットの事例を積み重ねるて対応策を仕組化します。

保育事故のデータベースのように過去の事例を生かすためには、さらに改善策を導くプロセスにおいて、もともとあった仕組みの中の保育者自身のヒューマンエラーを特定して、そのヒューマンエラーに対する改善こそが、保育の事故の再発防止策につながっていきます。

教科書に書かれた通りに保育を真似するだけが、よい保育ではないように、保育の事故の再発防止策も、保育事故のデータベースに掲載された改善策の通りに真似をすれば終わりではありません。保育事故のデータベースという素晴らしいツールを使いこなして、重大な事故を減らしていけるように、保育者自ら事故分析について学んでくださることを願っています。

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