発達と保育リスクマネジメント

保育の事故データベースを保育者側からパワーアップする事故報告書のあり方

 内閣府から「特定教育・保育施設等における事故情報データベース(以下、保育事故のデータベース)」が公開されたことは、みなさんのご承知のことと思います。この保育の事故データベースは、類似した保育事故の再発防止を目的のひとつとして、さらに閲覧しやすいシステムの開発ほか情報の精度を上げることが、公開直後から検討されているようです。

しかし自治体からの報告箇所「事故発生の要因分析」を見る限り、『発達に適した遊具選びをし、安全に遊ばせる』といった改善策として具体性のない内容も多く、そもそも事故が起きた保育施設から報告された情報自体が、分析に足りていなかったことが想像されます。事故発生の要因分析は、SHELモデルという分析手法が用いられています。SHELモデルとは、ふるい分ける項目を決めておいて、振り分けられた内容から事故に関係したと考えられる要因を探っていく定性的分析のフレームワークです。この分析手法に合わせた報告書のあり方についてご提案します。

保育の事故報告書の第一目的は事実の洗い出し

 保育の事故データベースを手っ取り早く改善するには、内閣府に意見を届け、検討会の委員の皆さんにご検討いただくことですが、保育の事故データベースは、保育施設から自治体への報告からはじまって、その自治体がもつ情報をもとに組み上げられるわけですから、たとえ今ある形であっても、保育施設からの報告形式が適応し、内容が十分にカスタマイズされれば、それを掲載するデータベースも自ずとパワーアップしていくことがイメージできます。

現在、多くの保育施設で見受けられる事故報告書では、事故の内容と原因の分析、そして改善策の主に3つの項目があって、中心となった保育者の自由記述形式で一度にすべての回答を求められます。立場的に事故を回避できなかった担当保育者に、事故が発生した理由を問い、自分の問題として今後どうしたらよいかという、その保育者の主観ばかりを書かせるので、後から第三者が見たときに、客観的事実が非常に見えにくい報告書ができあがることも少なくありません。

保育の事故報告書はリスクコミュニケーションが優先

保育事故の分析は、「目を離した隙にケガをした」といった結果の奥にある、「なぜ、ケガをするに至ったか」その背景要因を明らかにします。たとえば「滑り台から降りようとして、足を滑らして落ちて骨を折った」という事故が起きた場合、骨を折った結果に対して直接的原因である、足を滑らして落ちたことに対して防止策を導くことを分析の目的にすると、降り方についての教育が足りなかった、保育者の注意が足りなかったという結論に至りがちです。

それによって子どもたちを叱ることが多くなったり、保育者の人数が足りない、がんばっても注意が行き届かないといったことを理由に、背の高い遊具であそぶことそのものを無くす事態を招くことも少なくありません。くり返しますが事故の分析とは、滑るに至った事故の背景にある複数の要因を明らかにして、その背景要因に対する対応策を導き出すきっかけを与えることが目的です。そうすることによって保育の伸びやかさを失わないように守ることができます。

保育の事故報告書で世の中の声に応えていく

問題解決の手法として、早々の原因究明と対応策を出すのは非常に大切なことですが、保育の事故における(リスク)コミュニケーションでは、もちろん原因究明と解決策も大事ながら、まず事故が発生するに至った経緯を聴く者が理解できる形で確認できることが大切で、発生時にはどのような対応がなされ、その結果として、子どもがどのような状態にあるのか、そして今後どうなるのかが納得した形で判るように説明されることの方が重要度が高いといえます。

子どもと保育者が関わりあっての保育の事故は、子ども自身のひとつの行為や特別な理由だけでなく、子どもを取り巻く複数の要因が影響しあって起きます。保育理念につながる安全に対する方針や保育施設の組織全体の体勢のあり方も背景要因となります。事故の中心人物である保育者個人がインシデントを認識して分析する以外に、保育の責任の主体である組織が客観的に分析する流れをつくり、分析に必要な情報に漏れがないように事実を洗い出すことが大切です。

保育の事故データベースの事故発生の要因分析とは

 保育事故のデータベースには、事故の報告を行った自治体による「事故発生の要因分析」が掲載されています。要因分析は大きく、ソフト面(マニュアル、研修、職員配置等)、ハード面(施設、設備等)、環境面(教育・保育の状況等)人的面(担当保育教諭・幼稚園教諭・保育士の状況)、その他の5つの項目について、分析と改善策が提示されています。

これは、「SHEL(シェル)モデル」と呼ばれる定性分析手法のひとつです。保育事故のデータベースだけの特別なモデルではありません。航空業界の事故調査に始まった手法で、医療、福祉分野と広まって、たくさんの自治体で取り入れられはじめている方法です。

S :ソフトウエア(Software) 作業手順や作業指示の内容
H :ハードウエア(Hardware) 作業に使われる道具、機器、設備など
E :環境(Environment) 照明や騒音、温度や湿度、作業空間の広さな どの作業環境等の要素
L :周りの人たち(Liveware) 指示、命令をする上司や、作業を一緒に行う同僚などの人的要素

SHEL 分析モデルは「+L」との関わりを明確にする

SHELモデルとは、もうひとつ忘れてはいけない大事な「L」、事故の中心にいた作業者本人(Liveware)を明確にして、その中心となる「L」に対して、先ほどの4つの要素「S・H・E・L」が、どのように当該事故のリスクを高めたのか、具体的に見つめて改善策を導く分析手法です。事故を検証する時点であらゆる事象を分析の対象とできるように、事故報告書の時点で、客観的に確認できていた事象として各項目別に振り分けて記述するところがポイントです。

保育の事故は、子どもが園生活を通して発生するので『作業=園生活』と解釈します。園生活における活動を通してケガをした事故の当事者(子ども)が、もうひとつの「L」となると考えていくとグッと判りやすくなります。保育の事故分析では、「S・H・E・L」+「L」を「K(園児)」に置き換えた『保育園用 K-SHEL モデル』(田中哲郎)が提唱されています。

分析のしやすさを考えて項目別に振り分ける

  • 事故対応:病院搬送(重大事故)or 施設内処理(ヒヤリハット)
  • 事故の分類
  • 事態の結果:済 or 継続
  • 当該園児の状況
  • 現場状況:様子および最終確認(時間)
  • 該当者:様子および最終確認(時間)
  • 発見時刻と対応者の当該園児との位置関係(発見者は直前)
  • 発見時事故状況(客観的確認)

保育の事故報告書1枚目

保育の事故報告書に必要なアサーション(自己表現)

 保育施設の職員には事故が発生した場合に説明責任が課されています。説明にあたっては対応義務に基づく保育者自らの行動について、専門的な判断に基づいて行なった事柄や反対に意図して行なわなかった事柄、それらによって変化があったことなどについて、説明対象が理解できる形にまとめて伝えるということが必要です。相手にとって言い訳として受け取られることなく、「アサーション」と言うリスクコミュニケーションに重要な意味をもつスキルを用います。

事故報告において、保育者がアサーションについて理解できていることは、とても大きな意味をもちます。適切なアサーションができないと、たとえ謝罪をしても相手に伝わらなかったり、反対に問題を実態以上に大きくする状況を招くことすらあります。報告する側と、報告を受ける側の両者にとって価値ある報告をすることの必要性が認識できていることが大切です。

コミュニケーション技法の1つで、「人は誰でも自分の意思や要求を表明する権利がある」との立場に基づく適切な自己表現のこと。トレーニングを通じて、お互いを尊重しながら率直に自己表現できるようになることを目指す。 アサーションの観点から望ましい対人関係のあり方とは「まず自分のことを考えるが、相手のことも配慮する」相互的な関係である。これは「相手に気兼ねし自分のことを後回しにする」タイプや「自分のことばかり考えて相手のことを顧みない」といったタイプの一方向的な対人関係とは異なる。 (出典:人事労務用語辞典)

リスクマネジメントから経過観察までの対応について

  • 活動の安全対策(リスクマネジメントについて)
  • 第一対応者の発見の道程
  • 1.発見時事故状況
  • 2.当該園児の身体状態
  • 3.初期対応
  • 4.症状変化
  • 経過観察内容
  • 事後対応

保育の事故報告書2枚目

以上です。実際のフォーマットを使って、報告書の検討してくださる方や、報告書の項目にご質問がある方は、お気軽にお問い合わせください。一緒に考えてくださる皆さんからのご意見をお待ちしております。

書籍【保育救命】~保育者のための安心安全ガイド~

【読者の声】園で子どもたちをのびのびと遊ばせてあげたいけれど、安全面が気になってしまって、禁止ばっかりを作りがちでした。でも、ここにのっている、ハザードマップを作れば、事前に予防ができそうだし、とっても簡単なので、忙しい私たちでもできそうなので、早速やってみたいと思っています。 怪我の対処法も、チャート式で簡潔になっているのでわかりやすいです。かなりオススメですよ。【評価:★★★★★】

【読者の声】保育現場のケガの手当て、事故対応の決定版といえる1冊。チャート式で、緊急時に何をしたらいいかの判断がわかりやすいと大好評。ハザードマップをつかったヒヤリハットの対応から、不安の大きな保護者対応まで、これ1冊で準備できます。【評価:★★★★★】

  • 筆者紹介
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遠藤 登(安全管理研修担当)

1993年に保母資格と教諭免許を取得。幼稚園勤務等を経て保育所の園長職兼、子どもの傷病者対応を専門とした救命処置法の普及活動を開始しました。2011年お昼寝中に心肺停止した園児を救うことが叶わず現在の活動に至る。株式会社保育安全のかたち代表取締役/ 保育現場のリスクマネジメントをテーマとした書籍を執筆(単著・共著ほか)

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