発達と保育リスクマネジメント

座って食べて窒息事故をふせぐ「保育のリスクマネジメント」とは

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(一財)日本病児保育協会のオープンセミナーでお話した題材のひとつを、@serukoさんが漫画にしてくださいました。よい機会なので、この「座って食べないと窒息につながる」事故の可能性について、どのようにリスクマネジメントを考えたらよいかについてお話しします。

リスクマネジメントというと、最近は「危機管理」などの漢語には訳さずに(訳すと意味合いが異なるため)、そのままリスクをマネジメントすることを言います。冒頭の漫画にあるように、落ち着いて座っていられない子どもの、食事の風景にともなうリスクを想像しながら、安全でたのしい保育をマネジメントするための対策のヒントをお届けします。

「お食事中、立ってはいけません!」子どもをどうやって説得しますか?
この言葉、保育だけではなく、家庭でもよく聞きます(中略)マナーも大切ですが、マナー以上に大切なこと、すわって食べないと窒息につながってしまうという身体の仕組みを説明いただきました。
出典:【第8回保育スキルアップ・セミナー開催報告】5~6分が生命の分かれ目!保育の現場に潜む『子どもの窒息』即時対処法(一般財団法人日本病児保育協会

窒息事故を招くリスクとハザード

 リスクマネジメントを考えるにあたっては、「リスク」と「ハザート」という2つの言葉の理解が欠かせません。ここでは、掛札逸美著:乳幼児の事故予防 保育者のためのリスク・マネジメントにある解説を、そのままリスクとハザードの意味として用いていきます。

まずハザードとは、『人の命、財産、環境などに悪影響を与える可能性のある危険(なモノや現象)』を言います。そしてリスクとは、『ハザードの深刻さ × そのハザードによって被害が起こる確率』から導きます。危険性の増したハザードに対して、さらにマイナスな使い方や触れ方をしていく確率が高くなるほど、リスクは大きくなります。

ハザードの深刻さ × そのハザードによって被害が起こる確率

乳幼児が段階を踏んで離乳食を食べるのは、消化しやすくするということと、摂食(咀嚼して、嚥下【えんげ:のみくだすこと】するまでの一連の仕組み)の成長具合に合わせる必要があるからです。低年齢だったり、発育が遅れている場合、嚥下の仕組み(窒息事故が起こるリスクに対するハザードのひとつ)はうまく機能しません。

今回のテーマの中での、ハザードの深刻さが増した状態と考えられます。さらに、呼吸を必要として気道のフタが開く現象(これもハザードのひとつ)も頻発するようになります。そのような状況に席を立ったり、はしゃいだ際の運動が激しいほど、ハザードの危険性とかけ合わさって事故が起きるリスクが大きくなります。

保育にともなうリスクとハザードのとらえ方

 社会福祉法で、個人の尊厳が守られていることから、保育のあそびに伴うリスクを、「子どもの成長に必要な危険」と考えて、もともとの活動の目標とともに、子ども自身が危険に気づいて回避できることも教育目標にすえた保育実践が見受けられます。

上述したリスクとハードの理解からすると、保育のあそびに伴うリスクとは、あそびで必要とするハザードの状態と、あそびの内容にともなうハザードへの触れ方、使い方しだいでリスクの大きさが想定できるものなので、子どもに対しての保育の価値を損なわない形で、次のようにリスクの取り扱いに注意することが望まれます。

「福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成され、又はその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない」
出典:社会福祉法 第三条より

ハザードを整理して活動内容とバランスをとる

まず、保育における食事風景だけでも、複数の要素(ハザード)を見て取ることができます。そしてハザードの分だけ、いくつものリスクが発生していることが判ります。「座って食べないと窒息につながる」情景に、どのようなリスクがあるか考えてみましょう。

    ハザードの深刻さ × そのハザードによって被害が起こる確率 = リスク

  1. 摂食機能の未成熟でノドに滞りやすい × 飲み込める分量以上にかきこむ =ノドに詰まる
  2. 呼吸が浅く頻回のため気道のフタが開きやすい × はしゃいで活動量が増す =気道に詰まる
  3. 一緒に食べる子どもに落ち着きがない × つられてはしゃぐ =咀嚼がおろそかになる
  4. 保育者にじっくり介助する余裕がない × 口に食べ物を入れすぎる =ノドに詰まる
  5. 食事内容に汁物がなく口をうるおせない × 口内の粘つきが増す =ノドに詰まる
  6. 前の活動との切り替えができていない × 注意が散漫になる =咀嚼がおろそかになる
  7. 調理内容が献立メニューと替わった × 変更に気付かない =誤食が起きるなど

ここで注目しておきたいことは、各ハザートの深刻さと、子どもの行為との関係性(ハザードによって被害が起こる確率)が掛け算になっている部分です。一見して、リスクだけを見ると、低年齢の子どもが食事をする上では仕方がないように感じるものばかりです。しかしハザードの深刻さを改善するか、または子どもとの関係性を補ってあげると、リスクそのものの存在や大きさが変わってくることが解ります。

ハザードがどんなに深刻であっても、それによって人に危害が及ぶ確立がゼロであれば、またはゼロに近ければ、リスクもゼロまたはゼロに近くなるのです。
出典:掛札逸美著:乳幼児の事故予防 保育者のためのリスク・マネジメント P.44

食事時間のリスクマネジメント

 摂食機能が未成熟なところを、短期間で何とかすることや、取り除くことはできません。しかし摂食機能が未成熟なことが、そのまま危険なわけではなく、成長過程に普通にあることで、個別の発育に合わせた適当な離乳食を提供することや、大人の適切な介助によって、ノドに詰まるリスクを限りなく小さくすることができます。

たとえば、子どもが日常的に「えづいて」飲み込めないことが多いときに、咀嚼だけの問題に考えて、子どものためだと、しっかり噛むことの大切さを教えることに一生懸命になりすぎて、えづいたら指を入れて掻き出すことが続いていたとしたら、窒息事故が起きるリスクは限りなく高まっていくとの認識をもつことが望ましいと思います。

窒息事故の防止にと口内に指を入れたり水を飲むのが間違いで危険な理由
 窒息事故について対応する研修を行なうと、「指を入れて掻き出そうとして指を噛まれた」という悩みや、「水を飲ませるのは?」という疑問を尋ねられます。そのほかにも背中を叩くタイミングが

除去食対応などはハザードの徹底管理で事故ゼロを目指す

食物アレルギーを抱えた子どもへの除去食対応においては、調理内容が予告なく献立メニューと替わることは、即、事故につながる可能性が高いものです。基本的には替えないことの方が望ましく、そのように努めていらっしゃることと思います。

また、もしも替える必要がある場合は、変更に必ず気づく仕組みをつくって、アレルギー症状が発生する事故を起こさないことが大切ですが、決してリスクはゼロにならないので、やはり替えないことが求められるのではないでしょうか。

保育のリスクマネジメントのまとめ

 食事やあそびに限らず、「子どもの成長に必要な危険」を子ども自身が体験して、回避する能力を身につけていくことは、とても大切な一面をもっています。しかし、たとえば食事時間に窒息を起こせば、その重症度をコントロールすることは不可能で、窒息の救助方法についても、絶対に助けられる手段は、残念ながら存在していません。

乳児の食事による窒息事故に安定した背中の叩き方(動画あり)
 人口動態統計をみると、0歳児が亡くなった理由の7割~8割が窒息です。保育現場だけでも、「息ができない」ことで亡くなる事故が毎年のように繰り返されています。それはうつぶせ寝による突

実際に事故が起きると、そもそもの教育目標に関係なく、安全をつくる立場にある保育者の過失性を問われることも増えていき、事故もなく達成できれば得られたであろう、もともとの「教育的な価値」を大きく損なっていくことになります。

保育にリスクがともなうことと危険を学ぶことが目的なこととは分ける

繰り返しますが、リスクとは、各ハザートの深刻さと、子どもの行為との関係性(ハザードによって被害が起こる確率)の掛け算です。リスクだけを見て、「事故の回避能力を育む危険性か、事故につながる危険性か(※)」を判断することは、正直とても難しく、結果として保育における子どもの活動に制限が出てくることになります。

※(1)遊びにおけるリスクとハザード
子どもは、遊びを通して冒険や挑戦をし、心身の能力を高めていくものであり、それは遊びの価値のひとつであるが、冒険や挑戦には危険性も内在している。
子どもの遊びにおける安全確保にあたっては、子どもの遊びに内在する危険性が遊びの価値のひとつでもあることから、事故の回避能力を育む危険性あるいは子どもが判断可能な危険性であるリスクと、事故につながる危険性あるいは子どもが判断不可能な危険性であるハザードとに区分するものとする。
出典:都市公園における遊具の安全確保に関する指針(改訂第2版)- 国土交通省

しかし、どのようなリスクがあるか具体的に洗い出して、そのハザードの深刻さを改善するか、または子どもとの関係性を補ってあげると、保育目標はそのままに、リスクそのものを小さくしていくことができます。安全でたのしい食事、そしてのびやかに過ごす保育の実現のためにも、これを機会にリスクマネジメントを見直してみてはいかがでしょうか。

保育現場のリスクマネジメントの考え方を知るためにおススメの本です。

書籍【保育救命】~保育者のための安心安全ガイド~

【読者の声】園で子どもたちをのびのびと遊ばせてあげたいけれど、安全面が気になってしまって、禁止ばっかりを作りがちでした。でも、ここにのっている、ハザードマップを作れば、事前に予防ができそうだし、とっても簡単なので、忙しい私たちでもできそうなので、早速やってみたいと思っています。 怪我の対処法も、チャート式で簡潔になっているのでわかりやすいです。かなりオススメですよ。【評価:★★★★★】

【読者の声】保育現場のケガの手当て、事故対応の決定版といえる1冊。チャート式で、緊急時に何をしたらいいかの判断がわかりやすいと大好評。ハザードマップをつかったヒヤリハットの対応から、不安の大きな保護者対応まで、これ1冊で準備できます。【評価:★★★★★】

  • 筆者紹介
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遠藤 登(安全管理研修担当)

1993年に保母資格と教諭免許を取得。幼稚園勤務等を経て保育所の園長職兼、子どもの傷病者対応を専門とした救命処置法の普及活動を開始しました。2011年お昼寝中に心肺停止した園児を救うことが叶わず現在の活動に至る。株式会社保育安全のかたち代表取締役/ 保育現場のリスクマネジメントをテーマとした書籍を執筆(単著・共著ほか)

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