厚生労働省から「乳幼児突然死症候群(SIDS)」のガイドラインがもたらされたことで、SIDSの疑いがもたれる症例については解剖が義務付けられました。それまで全国の保育園で、子どもが預けられていた最中に起こった症例については、残されたご遺族への配慮から、そのほとんどの事案において解剖されることはなかったと言われています。
乳幼児突然死症候群(SIDS)に関するガイドラインについて、厚生労働科学研究(子ども家庭総合研究事業)「乳幼児突然死症候群(SIDS)の診断のためのガイドライン作成およびその予防と発症率軽減に関する研究」(主任研究者:坂上正道北里大学名誉教授)においてとりまとめを行ったので、別添のとおり公表します。
解剖しないため、SIDSとの診断はつけられないが、他の原因も特定できず・・・といった場合には、『SIDSの疑いあり』という形で決着づけられてきました。
解明できないSIDSと保育へのワダカマリ
ただ、その“疑いあり”・・・とは、「窒息死かもしれない」という疑いを拭い去ることもできず、保育園側の過失による事件性が消えることはなく、ご家族と保育園との間のワダカマリは消えずに、あとあとまで残っていくことになります。
さらには、このガイドラインによって、保育園における「不審死または変死」について必ず解剖されるようになったとはいえ、まだ窒息とSIDSの区別がつかないケースがたくさんあることに変わりはありません。それには、以下の項目も関係しているといいます。
II 診断に際しての留意事項:
4) 外因死の診断には死亡現場の状況および法医学的な証拠を必要とする。外因死の中でも窒息死と診断するためには、体位に関係なく、ベッドの隙間や柵に挟み込まれるなどで頭部が拘束状態となり回避出来なくなっている、などの直接死因を説明しうる睡眠時の物理的状況が必要であり、通常使用している寝具で単にうつぶせという所見だけでは診断されない。また、虐待や殺人などによる意図的な窒息死は乳幼児突然死症候群(SIDS)との鑑別が困難な場合があり、慎重に診断する必要がある。
早期のSIDSの科学的解明が待ち望まれる
誰の目にも見て分かる、窒息の原因となった異物が見つかるか、窒息に至る現象が判明しない限りは窒息とせずに、「不詳」にしなさいということです。同時にそれは、保育園や保育者の法的な過失責任を曖昧なものにすることから、最愛の我が子が亡くなった詳しい状況を知り、家族が心の整理をつける機会を奪われることにつながってしまっています。
SIDSとは、防ぎようのないものなのかもしれません。でも、今まで乳児がSIDSによって亡くなる瞬間に立ち会った人間がいないこともふくめて、状況やタイミングによっては、気づかずに予防できている、もしくは蘇生が可能な病気なのかもしれません。
SIDSは無呼吸の覚醒反応を妨げる病態
現在のところ SIDSとは、普通に寝ている範囲で呼吸困難に陥りそうになったときなど、呼吸をしやすい姿勢をとろうとするといった「覚醒反応」があっておかしくない状況で、何らかの原因によって、その覚醒反応が妨げられて呼吸停止に至ると推測されています。
その『何らかの原因』を取り除くことで防げる可能性の高い病態、または、発見が早く適切な処置がなされれば、無呼吸状態から脱っすることで蘇生する可能性が考えられています。
一般的なSIDS予防の一歩先へ進む
最近の研究では、SIDSを患う乳児には、その覚醒反応が妨げられる要因が、先天的に脳にあるのかもしれないという説が有力になってきています。ただし、その脳にある何らかの因子が必ず発動するものなのか、これまで同様に発症を防げるものなのかは、未だに不明です。
保育者は、こういった法や医学の限界を迎えた背景を考えることで、「気をつけよう」という掛け声以上に、あらためて、子どもたちを養育する立場の保育者にしかできないことや、さらなる事態の打開を求めて行わなければならないことが見えてくるのではないでしょうか。