保育園のお昼寝時間に、「うつぶせ寝による窒息が疑われる」死亡事故の発生が度重なっていることから、お昼寝時間の保育者の見守り方法に大きな注目が集まっています。うつぶせ寝の防止などルール化されているものの、昨今、保育現場の人手不足が深刻なこともあって、俗に「ベビーセンサー」と呼ばれる保育者の見守り行為を補足する製品の導入が進んでいます。
このベビーセンサー(以下、お昼寝時間の見守り行為を補足する製品)類の機能説明にある、「眠っている乳児のカラダの動き、呼吸の停止や継続的なうつ伏せ寝状態を検知した場合に警告を出す」という共通した記載に基づいて、窒息事故の再発防止を掲げた見守り行為の強化という保育現場の課題に照らしながら、今回は、導入検討時の注意点について考えていきます。
赤ちゃんの突然死防止へ ベビーセンサー導入広がる
12月26日 NHKニュース
眠っている赤ちゃんが突然亡くなる、原因の分からない病気、乳幼児突然死症候群=SIDSを防ごうと、保育園などで眠っている赤ちゃんの呼吸や動きをモニタリングする「ベビーセンサー」と呼ばれる装置の導入が広がり始めています(中略)
このセンサーには、一定の時間赤ちゃんに動きがなかったときや、うつ伏せの状態が続いたときに警報音を鳴らすものがあり、東京都は来年2月にも、保育園などが購入する際に補助金の交付を始めるほか、埼玉県川口市でもこの秋に補助金を出すことを決めています。
ベビーセンサーを使う保育者の使用態度について
今回の話題で抑えておかなければいけない事。2017年末現在、保育現場では突然死が発生した場合の対応だけでなく、備えがあれば防げた可能性が高いシチュエーションにおける窒息事故の、再発防止を目的とした「予防」が義務となっています。この安全配慮義務に対する「人手不足」や保育者の認識不足といった課題に対して、機器の導入は代替策となるのでしょうか。
現在のところ、SIDSをはじめとした原因不明の突然死も発生していて、現行の制度にのっとった保育者の行動だけで、誰もが納得のいく安心感を得ることは厳しく、保育者がお昼寝時間の見守りを強化するとともに、支援するための機器の導入といった試行錯誤は安全性の向上のために必要と感じます。しかし機器を導入するだけで代わりとすることには不安が残ります。
医療機器である場合の薬機法に基づいた製造販売規制
まずお昼寝時間の見守り行為を補足する製品には、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)で規制された「医療機器」との明記が増えました。医療機器とあれば安心感を得やすいですが、医療機器であれば解決されるのか、また、なぜ医療機器なのか?も考えていく必要があります。医療機器はドラえもんの道具ではないのですから。
医療機器はその使用方法や効果・性能を明確に示す必要があって、根拠のない効能の記載や使用法は認められていません。そこは製造・販売業者が説明するところですが、一般に該当する届出番号を検索すると、比較的、誇張の少ない情報が出てくることがあります。どのような製品として届け出ているか導入予定の施設が確認するとよいポイントを見ていきましょう。
医療機器としてのベビーセンサーのクラス分類とは
医療機器は「身体の構造、機能に影響を及ぼす」度合い別に分類されています。医療機器というと、一般に「疾病の診断、治療、予防に使用されること」は期待されますが、「身体の構造、機能に影響を及ぼすこと」はあまり認知されていません。効能だけを求めて、やみ雲に使用すれば使用対象者の危険性も伴います。医療機器だから単に安心ではなく、期待される性能を発揮するべく、定められた範囲の厳格な医療機器の使い方が求められているとの認識が大切です。
医療機器の承認・認証に関する基本的考え方について
出典:独立行政法人医薬品医療機器総合機構
- 一般医療機器(クラスI)
「高度管理医療機器及び管理医療機器以外の医療機器であって、副作用又は機能の障害が生じた場合においても、人の生命及び健康に影響を与えるおそれがないものとして、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聞いて指定するものをいう。」(薬機法第二条第7項) - 管理医療機器(クラスII)
「高度管理医療機器以外の医療機器であって、副作用又は機能の障害が生じた場合において人の生命及び健康に影響を与えるおそれがあることからその適切な管理が必要なものとして、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聞いて指定するものをいう。」(薬機法第二条第6項) - 高度管理医療機器(クラスIII・IV)
「医療機器であって、副作用又は機能の障害が生じた場合(適切な使用目的に従い適正に使用された場合に限る。次項及び第七項において同じ。)において、人の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあることからその適切な管理が必要なものとして、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものをいう。」(薬機法第二条第5項)
実際に医療機器として認証されたお昼寝時間の見守り行為を補足する製品は、コードが巻き付くといった危険性はあるものの、もし不具合が起きても使用することによる人体への害は低いので届出のみの一般医療機器(クラスI)が多く、一部に第三者認証機関による認証を必要とする管理医療機器(クラスIII)の分類製品もありますが、効能に大きな違いは見られません。
病気の評価に用いてはいけない製品の禁忌・禁止について
以下は実際の製品類に記載された警告内容です。これら警告内容には、安全に乳児の呼吸や身体の動きを感知することを目指しながらも、乳児のお昼寝時の動きの異常の原因を予防しないことが示されていて、医療機器ではないタイプの類似製品にも同様の主旨の記載が見られます。補助金が出ることを理由に仮に誤った認識で保育園に導入された場合には、期待に反するばかりか、使用方法を誤る可能性が高まって、結果として本来の力を発揮しないことにもなります。
- 本品は、乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防や、睡眠障害(睡眠時無呼吸等)の病気の評価に用いる機器ではありません。乳児の状態は本品による体動の情報だけで判断せず、必ず保護者や看護者が確認してください。[乳児の状態異常に気づくのが遅れ、重大な健康被害(重体または死亡)につながる可能性がある。]
- 感度の高い装置なので、空気の流れ、換気扇、エアコン、機械的な振動などの環境的要素に影響される可能性があり、このような環境的要素は、乳児の運動の代わりに感知され、アラームが鳴るのを妨害したり遅らせたりする可能性がある。
ここまで調べただけでも、突然死の「発生」に備えた保育者の見守り強化策の一助にはなりそうですが、備えがあれば防げた可能性が高いシチュエーションの窒息事故に対する「予防」義務については、保育園に該当する医療機器が導入されるだけで代わりとはならないようです。さらに具体的な製品情報を確認しながら求められる保育体制について考えていきます。
代表的なベビーセンサーの使用に対する保育体制とは
現在のところ「医療機器」であることや「特許取得済み」の表記は、お昼寝時間の安全を担保することにつながらないことが見てとれます。以下に、実際に医療機器、または特許製品として届け出られている、影響力の大きいと思われる製品を紹介します。直接的な商品名ではなく届け出にある形で表記します。特定の商品を薦めるものではないことをご了承ください。
多くの製品が、保育者の過度な負担を減らすとうたっています。宣伝文句だけを鵜呑みにすると機械任せで保育者の安全配慮義務が果たせるかのようなイメージを持ちかねない製品もあります。直接的に子どもの安全を図るものだけに、トリセツを詳しく読むだけで解った気にならずに、実際にどこまでできる機械なのかを把握するよう努めてくださるようお願いします。
一般医療機器 スマートボタン体動センサ
▼届出番号:13B1X10140017300
保育園専用サービスをうたっている製品です。園児の衣服に装着するタイプで、お昼寝中の身体の向きや体動を感知した複数の子どもの様子を記録するアプリと連動しています。プレスリリース等などに基づく取材には「乳幼児の体動の有無(体動から呼吸の有無を判断)、うつ伏せ寝を検知」ほか「今までの5分ごとのチェックよりも早く危険を察知できる」とあります。
アプリと連動することを想定しながらも衣服に装着する部品のみが医療機器として届け出されています。体外に装着、電波も微弱なことからカラダヘの影響は少なく安全という意味での「一般医療機器」です。単独で稼働するためボタン電池を使用していることから誤飲事故の注意喚起を行なっています。感知する条件は「乳児が背中を下にして寝ている状態が理想的」とあることから、体位変換に対する誤った感知の恐れをふくめて、保育者の目視および定期的な個別チェックは欠かせないものと判断されます。自動記録など作業の軽減化を考慮しての使用が望まれます。
出典:独立行政法人医薬品医療機器総合機構
機械器具21 内臓機能検査用器具
一般医療機器 体動センサ 700740005. 原理
本体を乳児の腹部の適切な位置に取り付けて使用し、本体内部の加速度センサにより乳児の体動を検出するために用いる。【使用目的又は効果】
本品は体動を検出するために用いるセンサである。【使用上の注意】
〈重要な基本的注意事項〉
・使用後の本体、及びボタン電池とドライバーは、子供の手の届かないところに保管してください。[誤飲やけがのおそれがある。]
・体動のモニタリングを行うためには、やわらかすぎない床や布団の上で、乳児が背中を下にして寝ている状態が理想的です。モニタリング中は、乳児の背中を下にしてください。
高度管理医療機器 無呼吸アラーム
▼届出番号:20700BZY00646000
輸入販売されている製品です。もっともメジャーで類似品も多いマットレスの下に感知板を敷くタイプです。「乳児の呼吸に相当する身体の動きを感知し、身体の動きの低下や停止を感知し警告」を発するとあります。直接、呼吸をセンサーで読み取るわけではなく、呼吸してお腹や胸が膨らんだり、凹んで加わる感知板への圧力の違いを捉えて呼吸回数を数えています。
感知板のため乳児のカラダに触れることもなく、体動による圧によって感知する製品ですが、「乳児の身体の動きの異常の原因を予防する」ことはできず、誤った使い方や不具合が起きて鳴るべきタイミングにアラームがならない場合など、深刻な事態になりかねないとして「高度管理医療機器」となっています。普通に圧力を感知して鳴らないこと自体も安全を保証するものではありません。予防のための保育者の手による確認行為を行なえる体勢を整えましょう。
出典:独立行政法人医薬品医療機器総合機構
機械器具21 内臓機能検査用器具
高度管理医療機器 無呼吸アラーム JMDN 36319000(2)作動原理
感知板に内蔵されているピエゾ圧電変換器が運動を感知する。この感知されたシグナルがケーブルでつながれた制御装置に伝達され、運動表示ランプの点滅によって表示される。【使用目的、効能又は効果】
乳幼児の呼吸を含む動き(運動)を継続的に感知し、動きが一定回数以下に減少したり一定時間停止すると警告を発する。○その他の注意
(3) ハイハイをしない乳児の場合は、感知板を1枚使用すること。寝返りを始めたり、ハイハイができる乳児など、1枚の感知板だけでは乳児の身体の動きをカバーできないと思われる場合は、2枚の感知板を使用すること。
非医療機器 呼吸見守りセンサー
▼特許 第5887676号:生体情報検出用のエアパッド
医療機器ばかりでもないので、医療機器以外の製品もご紹介します。マットレスの下で感知するタイプですが、独自の技術のエアパッドを用いて、「横隔膜の動きを検知して呼吸をモニターするため、より正確に呼吸の見守りが可能」とあります。原理は呼吸による胸やお腹の動きを感知することに違いはなく、形状として横隔膜付近の体動を検知しやすいようです。
ほかの商品に比べると、モニター結果を表示するアプリなど使い勝手に力を入れている印象。特に呼吸の感知については、医療機器ではないため効能表記はないものの肌に装着するタイプのセンサーと見まがうような謳い文句が目立ちます。「無呼吸アラーム」同様に上からの圧力を感知するので、うつぶせ寝の見分け等もふくめて保育者の見守りが基本となります。
出典:Concepts Engine for Propel Innovation
生体情報検出用のエアパッド、生体情報検出装置及び生体情報配信システム (JP 5887676 B)(57) 【特許請求の範囲】
検出対象者の身長方向に交差するように配置される空気袋と、前記空気袋の長手方向の一端側に共に設けられ、両端が前記空気袋の外部と内部にそれぞれ(中略)備えた生体情報検出用のエアパッド。
前記内部空気管は、シリコンチューブである【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0003】
特許文献1の生体情報収集装置は、空気袋に空気の残留がある状態で人体が乗った状態における空気圧の変化を無指向性マイクロフォン又は圧力センサにより検出する。これにより、人体の呼吸、心拍数(心拍周期)、セキやイビキを含む体動等の生体情報が計測される
ベビーセンサーの効能と導入にあたっての課題について
それぞれ「加速度センサにより乳児の体動」、「圧電変換器が運動」、「空気袋に空気の残留がある状態で人体が乗った状態における空気圧」を感知・検出する機器です。製品説明には「うつぶせ寝状態を検知」、「呼吸見守り」、「呼吸に相当する動きを検知」するなどと見受けられますが、体位や呼吸状態を、直接、視ているわけではないことに注意が必要です。
子どもに装着させる、子どもが上に寝ることを前提に、センサーが感知する加速や圧を「子どもの動き」として精巧に見立てています。機械は人間以上に絶え間なく、それらを感知し続けることができます。保育者が目で見て、その手で触れて子どものお昼寝中の基本的な安全を確保すると同時に、機械の前提条件を整えることで機械は大きな力を発揮することでしょう。
AED講習を参考にベビーセンサーの導入時研修を検討する
これらお昼寝時間の見守り行為を補足する製品以外に、保育現場に設置が進んでいる医療機器といえば「AED(自動体外式除細動器)」があります。AEDは緊急事態のための機器なので、製品の導入時には使用方法の説明とともに緊急時対応の講習がセットで行なわれています。それでもAEDに対する理解は深まっていません。まだまだ導入にあたって改善の必要性があります。
ベビーセンサー類はお昼寝の見守り行為を補足すると同時に、継続的なうつぶせ寝や呼吸停止状態を知らせるものでもあります。緊急時対応としての直接的な使用はないものの、やはり導入するにあたっては緊急時に対応するための講習も、AED同様にセットにして行なわれることが望ましいものの、行なわれている様子はありません。子どもたちの安定したお昼寝を保証することは保育者全員の問題です。皆さんも引き続き一緒に考えてくだるようお願いいたします。
乳幼児の異変、見逃さない就寝中の呼吸を検知
2018年1月8日 日経敷布団の下などに取り付け、寝ている乳幼児の呼吸数などを測定する「ベビーセンサー」を導入する保育所が増えている。就寝中の子供の突然死が後を絶たないなか、異変を早期に察知するのが狙い。小さな命を預かっている保育士のプレッシャーを少しでも軽くしようと、自治体が購入を補助する動きが広がっている。
(中略)
都が補助金を導入したのは、16年3月に中央区の認可外保育施設で1歳の男児が昼寝中に死亡した事故がきっかけ。都の検証委員会は「直接の死因は把握できなかった」としたものの、昼寝中の子供の安全確認をきめ細かく行うよう提言した。埼玉県川口市でも15年9月に認可外保育施設で生後3カ月の男児が死亡。市は17年10月に呼吸モニターの設置費用を補助することを決めた。
ベビーセンサーを開発するリキッド・デザイン・システムズ(横浜市)は「自治体が補助金導入を決めた昨年秋ごろから、保育所からの問い合わせが増えた」と話す