保育園の午睡にベビーセンサーは必要か?保育園のベビーセンサーの望ましい使い方:後編

2019年2月19日

 保育所等における業務効率化推進事業の実施以降、保育施設向けベビーセンサーが開発されたり、現場に導入されたという話が盛んに聞かれるようになりました。以前、実際のところベビーセンサーとはどういったものか、保育施設でどのように活用していけばいいかについて記事を書きましたが、関連して神奈川県主催で開催された研修会資料の一部を公開します。

平成30年度、第2回私設保育施設等 保育担当者 事故防止研修会「睡眠時の事故防止と保育施設でのベビーセンサーの使い方」(講師・文責:株式会社保育安全のかたち 遠藤登)

  1. ベビーセンサー導入の背景と警告について
  2. 保育者の安全配慮と午睡環境について
  3. ベビーセンサーと緊急事態対応について
保育園看護師A
保育園看護師A

質疑「ベビーセンサーを導入することで、睡眠チェックの見回る量的負担を減らせますか?」(意訳)

応答「保育施設職員に求められる役割は窒息事故防止と突然死の予防です。ベビーセンサーは予防ができないので量的負担を減らすことはできません。量的負担を減らせるかのような宣伝文句が誤りです」

遠藤@保育安全のかたち
遠藤@保育安全のかたち

保育施設における午睡事故死の発生と保育業務の軽減

 ベビーセンサーを語る上では、まず「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」および保育所保育指針(第3章 健康及び安全)内でも勧告のあった、保育施設における『睡眠中、プール活動・水遊び中、食事中等の場面』で重大事故(特に死亡事故)の発生が多いことから、事故防止対策が強化されている背景の理解は欠かせません。

ひとつ目のお昼寝は0・1歳児のうつぶせ寝による窒息事故死の防止と、0歳児の SIDS、1・2歳児の睡眠中の突然死の予防を目的とした個別の睡眠チェックを行ない、ふたつ目のプールでは入水児の溺水死を防止するため通常の人員配置+1の監視役が必要となりました。みっつ目の給食時間は気道内異物の除去の習得はもちろん、そもそも子どものノドに食べ物を詰まらせないように、子どもの発育に合わせた食べさせ方の見直しと保育環境づくりが求められています。

保育所保育指針 第3章 健康及び安全
3 環境及び衛生管理並びに安全管理
⑵ 事故防止及び安全対策
ア 保育中の事故防止のために、(中略)家庭や地域の関係機関の協力の下に安全指導を行うこと。
イ 事故防止の取組を行う際には、特に、睡眠中、プール活動・水遊び中、食事中等の場面では重大事故が発生しやすいことを踏まえ、子どもの主体的な活動を大切にしつつ、施設内外の環境の配慮や指導の工夫を行うなど、必要な対策を講じること。
ウ 保育中の事故の発生に備え、(中略)子どもの精神保健面における対応に留意すること。

死亡事故の7割におよぶ睡眠中の窒息事故死の対策強化

教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議からは以下の報告がありました。「最も多いのが睡眠中の 25件、次いで室内活動中が3件、屋外活動中が2件、食事中及び水遊び・プール活動中が各1件、その他が 3件となっており、睡眠中の死亡事故が全体の7割を占めている。また、睡眠中の 25件のうち、うつぶせ寝の状態だった事例は 11件であった」。

睡眠中の窒息事故死では配置基準が守られておらず、お昼寝の間、放置されていたケースが多いものの、もともと保育現場では寝かせるにあたって部屋を真っ暗にしたり、邪魔をしないという理由で保育者が部屋の外へ出る、眠れるからと能動的なうつぶせ寝が推奨されてきていました。まだまだ各施設の事情ごとに課題を抱えながら改革が進められています。

保育業務支援システムは保育業務の負担軽減に資するもの?

都市部の保育所の人手不足で保育所職員の業務負担が大きくなっていたことから、紙に書いてきた連絡ノートをデジタル化して手間の簡略化をはかったり、インターネットを介して保育園児の出欠確認などをふくむ保育者と保護者とのコミュニケーションをつなぐ、保育所で働く職員の業務軽減を目的としたICT製品の開発や導入が活性化しました。睡眠中の事故防止対策が早急に求められる中、その保育業務の負担を軽減する目的でベビーセンサー導入も押し進められています

これら「保育業務支援システム」を新たに導入する場合には、その費用の一部が自治体から補助されるほか、神奈川県大和市では全国の自治体初の試みとして、0歳児保育を行なっている市内全域の保育施設に無料配布が行なわれました。しかし補助金申請の手続きの煩雑さや全体にデジタル化が遅れている面も重なって、保育現場で検討する際のベビーセンサーの選択肢はないに等しく、導入を通じて事故防止と業務負担の軽減を同時に叶えるには多くの課題を残しています

保育所等におけるICT化推進事業実施要綱
第6 保育業務支援システムの機能等について
(1)保育業務支援システムは、(中略)。
ア 他の機能と連動した園児台帳の作成・管理機能
※園児台帳には、氏名・住所等の基本情報のほか、家族の連絡先、メールアドレス、身体測定、出生時記録、成長記録、既往症、かかりつけ医師、生活記録、健診と予防など、様々な情報管理が可能となっていること。
イ 園児台帳と連動した指導計画の作成機能
ウ 園児台帳や指導計画と連動した保育日誌の作成機能
エ 園児台帳と連動した園児の登園及び降園の管理に関する機能
オ 保護者との連絡に関する機能

ベビーセンサーの警告と保育業務における安全配慮義務

現在ベビーセンサーは大きく3つに分類できます。ひとつはベビーセンサーの主流といえるマットの下に固い感知板を敷いて、寝ている子どもの体動を感知するタイプ。寝ていても何かしら身体が動いたり微細な振動が伝わってくるもので、その体動が感知できない緊急事態に警告アラームが鳴るというもの。ほか輸入品や産科医院向けとして先行した感知板に対して、保育園向けとしての開発品が出てきたのが主にエアーマットで呼吸を見守るという触れ込みのもの。

後者はエアーパッドの中の空気に伝わる微細な振動や、呼吸時にエアーマットに伝わってくる圧から呼吸回数等の変動を感知して緊急事態には警告アラームが鳴る想定になっています。最後は子どもの服に取り付けた小さな部品の移動を計測したり、カメラ画像を解析する等によって子どもの寝姿勢の変化を見守り、うつぶせ寝になったらアラームなどで警告を発します。

見守るだけでなく事故防止するための保育業務に削減はない

保育所の導入対象となっている、ほぼ全てのベビーセンサーに『乳児の呼吸を含む身体の動きを感知し、身体の動きの低下や停止を感知し警告を発するが、乳児の身体の動きの異常の原因を予防するものではない』といった類の注意勧告が記載されています。保育所におけるベビーセンサーの使い方を考える上でとても大切な内容で保育者は理解を深める必要があります

重要なことなので繰り返しますが、ベビーセンサーが保育所に導入されるようになったのは、毎年、午睡時間に子どもの命が失われつづける中、保育者の業務過失が疑われる不適切な保育が一因だったケースも見受けられ、そのような安全対策を見直せば救える命があることから、改善策のひとつとして睡眠チェックの実施が進められた背景に基づきます。しかしベビーセンサーが睡眠時の死亡原因を予防するものではない以上、保育者の行なうべき業務に変わりありません

ベビーセンサーは事故の迅速発見や見落とし防止をサポート

「保育所等におけるICT化推進事業」の対象となる保育施設は内閣府令39号に基づく安全管理と危機管理業務が義務付けらえています。中でも園生活で、子どもにとって重大事故(※)が発生する危険性の予知(予測)に基づいて、保育の安全に配慮した環境をつくる義務(注意義務ともいう)があることを常に念頭に置きながら保育を実践する必要があります。

(※) 教育・保育施設等において発生した死亡事故や治療に要する期間が30日以上の負傷や疾病を伴う重篤な事故等(意識不明(人工呼吸器を付ける、ICUに入る等)の事故を含む。)
「教育・保育施設等における事故報告集計」の公表(内閣府)

睡眠の見守りにおいての呼吸停止があったならば迅速に発見する必要があるので、ベビーセンサーによるサポートはとても心強いものですが、傷病による呼吸停止の予防やうつぶせ寝による窒息事故が発生することそのものは保育者が防止していく必要があります。ベビーセンサーが保育者の見落としなどを防止してくれる安心感とともに安全管理業務を継続しましょう。

睡眠チェックの重要ポイントとベビーセンサーの導入環境

傷病による呼吸停止の予防やうつぶせ寝による窒息事故を防止するにあたって、「うつぶせ寝を放置しない」というルールがあっても窒息事故が発生することがあります。当事者も放置しないというルールを知らないわけでも、気をつけていないわけでもない、しかし「うつぶせ寝と呼ばれる寝姿勢」について認識を間違っていると、ルールはないことと同じになります

うつぶせ寝といえば、当たり前のように全ての保育者が同じ寝姿勢を見ていると考えますが、保育者の中で「うつぶせ寝とは顔が真下を向いて鼻や口が埋もれた状態」と考える人間がいれば、顔が横を向いただけで、その姿勢のままでよいという考えに陥って放置される結果を生みます。「うつぶせ寝とは何か」が間違えばルールがあっても対策が間違ってしまいます。

ミルクの吐き戻しによる誤嚥の危険性と睡眠中の見守り

ノドに異物が詰まる中でも、肺とつながった気管に異物が入り込むことを誤嚥といいます。異物は固形物である必要はなくミルクのような液体でも窒息にいたります。まだ生活リズムが安定しない乳児などミルクを飲んでいる最中に眠ってしまったりするものですが、ミルクの吐き戻しなどから少量でも気管に入ることで、簡単に窒息事故に至る危険性が捨てきれません。

ミルクを飲んでいる時期は、口唇・舌・顎が一体となって動いていた反射にもとづく動きから,口唇・舌・顎のそれぞれが独立した子ども自らの意志に従った動きへと大きく移り変わっていく時期でもあり、哺乳とともに大量の空気を嚥下する空気嚥下による影響や、授乳後に口から少量の乳がだらだらと吐き出される溢(いつ)乳など生理的な原因によるミルクの吐き戻しが多くなります。授乳のタイミングと睡眠のタイミングが重なったときなどは特に注意が必要です。


出典:乳幼児の摂食・嚥下指導マニュアル(千葉県山武保健所)

ベビーセンサーのための環境構成 VS 事故防止のための環境

感知板タイプやエアーマットの類のベビーセンサーは、感度の高い装置のため子どもの体動以外の小さな振動に影響されやすく、子どもの体動が止まったとしても、環境しだいでは体動以外の振動を体動と誤感知して警告が遅れる可能性に触れています。しかし保育環境においては窓を開けて換気することや、子どもに近づいて個別の睡眠チェックをする必要があります

感知板にマットを敷くと寝姿勢しだいで感知できずに誤ってアラームが鳴ってしまい、子どもたちがびっくりして起きてしまうなど、どちらかといえば保育環境はベビーセンサーにとってやさしくはなくて、「ベビーセンサーにとって望ましい環境構成」と「事故を防止するために必要な環境」とがぶつかって困るわりに、保育業務の作業数の削減にもつながりません。

それでもベビーセンサーは見落としの軽減や呼吸停止時の迅速対応に役立ちますが、導入する以上は取り扱い説明書にない部分についても理解を深めての活用をお願いいたします。

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保育安全のかたち

代表:遠藤/専門:保育の安全管理・衛生管理/保育事故の対策、感染拡大の予防、医療的ケア児ほか障害児の増加など医療との関わりが深まる一方の保育の社会課題の解決にむけて、保育園看護師の業務改革ほかリスク管理が巧みな保育運営をサポート

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