保育所等における業務効率化推進事業の実施以降、保育施設向けベビーセンサーが開発されたり、現場に導入されたという話が盛んに聞かれるようになりました。以前、実際のところベビーセンサーとはどういったものか、保育施設でどのように活用していけばいいかについて記事を書きましたが、関連して神奈川県主催で開催された、研修内容の一部を公開します(許可済み)。
平成30年度、第2回私設保育施設等 保育担当者 事故防止研修会「睡眠時の事故防止と保育施設でのベビーセンサーの使い方」(講師・文責:株式会社保育安全のかたち 遠藤登)
- ベビーセンサー導入の背景と警告について
- 保育者の安全配慮と午睡環境について
- ベビーセンサーと緊急事態対応について
質問「ベビーセンサーを導入することで、睡眠チェックの見回る量的負担を減らせますか?」(意訳)
「保育施設職員に求められる役割は窒息事故防止と突然死の予防です。ベビーセンサーは予防ができないので量的負担を減らすことはできません。量的負担を減らせないばかりか、保育の質を損なうかのような宣伝文句に注意が必要です」
保育施設における午睡事故死の発生と保育業務の軽減
ベビーセンサーを語る上で、まずは「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」および保育所保育指針(第3章 健康及び安全)内でも勧告のあった、保育施設における『睡眠中、プール活動・水遊び中、食事中等の場面』で重大事故(特に死亡事故)の発生が多いことから、事故防止対策が強化されている背景の理解は欠かせません。
まずお昼寝は、0・1歳児に多い、うつぶせ寝による窒息事故死の回避と、0歳児の SIDS、1・2歳児の、予期せぬ突然死の予防を目的とした睡眠チェックを行ない、ふたつ目のプールでは、入水児の溺水事故を回避するため、通常の人員配置+1の監視役の配置が義務づけられました。みっつ目の給食時間は、誤食事故の回避はもちろん、子どものノドに食べ物を詰まらせないように、子どもの発育に合わせた提供と食べさせ方の見直し、家庭との連携した保育環境づくりが求められています。
保育所保育指針 第3章 健康及び安全
3 環境及び衛生管理並びに安全管理
⑵ 事故防止及び安全対策
ア 保育中の事故防止のために、(中略)家庭や地域の関係機関の協力の下に安全指導を行うこと。
イ 事故防止の取組を行う際には、特に、睡眠中、プール活動・水遊び中、食事中等の場面では重大事故が発生しやすいことを踏まえ、子どもの主体的な活動を大切にしつつ、施設内外の環境の配慮や指導の工夫を行うなど、必要な対策を講じること。
ウ 保育中の事故の発生に備え、(中略)子どもの精神保健面における対応に留意すること。
死亡事故の7割におよぶ睡眠中の窒息事故死の対策強化
教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議からは、以下の報告がありました。「最も多いのが睡眠中の 25件、次いで室内活動中が3件、屋外活動中が2件、食事中及び水遊び・プール活動中が各1件、その他が 3件となっており、睡眠中の死亡事故が全体の7割を占めている。また、睡眠中の 25件のうち、うつぶせ寝の状態だった事例は 11件であった」。
睡眠中の窒息事故死では配置基準が守られておらず、お昼寝の間、放置されていたケースが多いものの、もともと保育現場では寝かせるにあたって、部屋を真っ暗にしたり、眠る子どもの邪魔をしないという理由で保育者が部屋の外へ出たり、眠れるからと能動的なうつぶせ寝が推奨されてきていました。まだまだ各施設の事情ごとに、課題を抱えながら改革がすすむ現状があります。
保育業務支援システムは保育業務の負担軽減に資するもの?
都市部の保育所の人手不足で、保育所職員の業務負担が大きくなっていたことから、紙に書いてきた連絡ノートをデジタル化するほか、インターネットを介して、保育園児の出欠確認などをふくめた、保育者と保護者とのコミュニケーションを担ったりと、保育所で働く職員の業務軽減を目的とした、ICT・IoT 製品の開発や導入が活性化しました。睡眠中の事故防止対策が早急に求められる中、その保育業務の負担を軽減する目的でベビーセンサー導入も押し進められています。
これら「保育業務支援システム」を新たに導入する場合には、その費用の一部が自治体から補助されるほか、たとえば神奈川県大和市では、全国の自治体初の試みとして、0歳児保育を行なっている、市内全域の保育施設に無料配布が行なわれました。しかし補助金申請の手続きの煩雑さや、業務全体に対するデジタル化が遅れている状況も重なって、ベビーセンサーの導入を通じて、事故防止と保育者の業務負担の軽減を同時に叶えるには、残念ながら多くの課題が残っています。
保育所等におけるICT化推進事業実施要綱
第6 保育業務支援システムの機能等について
(1)保育業務支援システムは、(中略)。
ア 他の機能と連動した園児台帳の作成・管理機能
※園児台帳には、氏名・住所等の基本情報のほか、家族の連絡先、メールアドレス、身体測定、出生時記録、成長記録、既往症、かかりつけ医師、生活記録、健診と予防など、様々な情報管理が可能となっていること。
イ 園児台帳と連動した指導計画の作成機能
ウ 園児台帳や指導計画と連動した保育日誌の作成機能
エ 園児台帳と連動した園児の登園及び降園の管理に関する機能
オ 保護者との連絡に関する機能
ベビーセンサーの警告と保育業務における安全配慮義務
現在、ベビーセンサーは大きく3つに分類できます。ひとつはベビーセンサーの主流といえる、マットの下に固い感知板を敷いて、寝ている子どもの体動を感知するタイプ。寝ていても何かしら身体が動いたり、微細な振動が伝わってくるもので、その体動が感知できない緊急事態に警告アラームが鳴るというもの。ほか輸入品や産科医院向けとして先行した感知板に対して、保育園向けとしての開発品が出てきたのが、主にエアーマットで呼吸を見守るという触れ込みのもの。
後者は、エアーパッドの中の空気に伝わる微細な振動や、呼吸時にエアーマットに伝わってくる圧から、呼吸回数等の変動を感知して、緊急事態には警告アラームが鳴る想定になっています。最後は、子どもの服に取り付けた小さな部品の位置情報を計測したり、カメラ画像を解析する等によって、子どもの寝姿勢の変化を見守り、うつぶせ寝になったらアラームなどで警告を発します。
見守るだけでなく、事故を回避するための保育業務に削減はない
保育所の導入対象となっている、ほぼ全てのベビーセンサーに『乳児の呼吸を含む身体の動きを感知し、身体の動きの低下や停止を感知し警告を発するが、乳児の身体の動きの異常の原因を予防するものではない』といった類の注意勧告が記載されています。保育所の安全対策としてベビーセンサーの使い方を考える上で、知らぬフリはできない、とても重要な勧告です。
くり返しますが、ベビーセンサーが保育所に導入されるようになったのは、毎年、午睡時間に子どもの命が失われつづける中、保育者の業務過失が疑われる、不適切な保育が一因だったケースも見られ、そのような保育環境を見直せば救える命があることから、その改善策のひとつとして、睡眠チェックの実施が進みました。しかしベビーセンサーが、睡眠時の死亡事故を予防するものではない以上、保育者の行なうべき業務にとって代わることはなく、あくまで補助する道具という理解が大切です。
保育者の役割の上にベビーセンサーの機会としての価値がある
「保育所等におけるICT化推進事業」の対象となる保育施設は、内閣府令39号に基づく安全管理と危機管理が義務付けらえています。中でも、園生活で子どもの重大事故(※)が発生する危険性の予知(予測)に基づいて、保育の安全に配慮した環境をつくる義務(=安全配慮義務)があることを、常に念頭に置きながら保育を実践する必要があります。
(※) 教育・保育施設等において発生した死亡事故や治療に要する期間が30日以上の負傷や疾病を伴う重篤な事故等(意識不明(人工呼吸器を付ける、ICUに入る等)の事故を含む。)
「教育・保育施設等における事故報告集計」の公表(内閣府)
もし、お昼寝中に子どもの呼吸停止があったら、迅速に発見しなければならないので、ベビーセンサーによるサポートは心強いものです。しかし、傷病による呼吸停止の回避や、うつぶせ寝による窒息事故が発生することそのものは、保育者が防止していく必要があります。ベビーセンサーが、保育者の見落としなどを補足するのとは別に、保育者は専門性を生かして役割を果たします。
睡眠チェックの重要ポイントとベビーセンサーの導入環境
傷病による呼吸停止の回避や、うつぶせ寝による窒息事故を防止するにあたって、「うつぶせ寝を放置しない」というルールがあっても、窒息事故が発生することがあります。当事者も放置しないというルールを知らないわけでも、気をつけていないわけでもない、しかし「うつぶせ寝と呼ばれる寝姿勢」について認識を間違っていると、ルールはないことと同じになります。
うつぶせ寝といえば、全ての保育者が同じ寝姿勢を、当たり前のようにイメージすると考えますが、もし保育者の中で「うつぶせ寝とは顔が真下を向いて鼻や口が埋もれた状態」と考える人間がいれば、顔が横を向いただけで、その姿勢のままでよいという考えに陥って放置される結果を生みます。「うつぶせ寝とは何か」が間違えば、ルールがあっても対策が間違ってしまいます。
ミルクの吐き戻しによる誤嚥の危険性と睡眠中の見守り
ノドに異物が詰まる中でも、肺とつながった気管に異物が入り込むことを「誤嚥」といいます。異物は固形物である必要はなく、ミルクのような液体でも窒息にいたります。まだ生活リズムが安定しない乳児など、ミルクを飲んでいる最中に眠ってしまったりするものですが、ミルクの吐き戻しなどが少量でも気管に入ることで、簡単に窒息事故に至る危険性が捨てきれません。
ミルクを飲んでいる時期は、口唇・舌・顎が一体となって動く、反射にもとづく動きから、口唇・舌・顎のそれぞれが独立した、子ども自らの意志に従った動きへと大きく移り変わっていく時期でもあり、哺乳とともに、大量の空気を嚥下する空気嚥下による影響や、授乳後に、口から少量の乳がだらだらと吐き出される溢(いつ)乳など、生理的な原因によるミルクの吐き戻しが多くなります。授乳のタイミングと、睡眠のタイミングが重なったときなどは特に注意が必要です。
出典:乳幼児の摂食・嚥下指導マニュアル(千葉県山武保健所)
保育者のヒューマンエラーに注意してベビーセンサーを有効に活用しよう
ベビーセンサーは、事故が発生したとき、保育者が気づくのがおくれて放置するリスクを減少させることができます。しかし、そもそも保育者は、子どもの発育・発達の様子を把握して、安全配慮義務にもとづいて、業務として深刻事故の発生を回避する責任があります。あおむけ寝を徹底する理由に理解を深め、ただ寝かせるだけでなく、子どもの特性に合わせて、安全で、子どもが安心して睡眠できる保育的な配慮ができることが、保育者の当然の役割として求められています。
ただ、感知板や、エアーマットの類のベビーセンサーは、感度を高く設定すると、体動以外の振動を「異常な体動」と誤感知したり、感知板に汚れ防止のマットを敷くと、寝姿勢しだいで反対に感知ができずに、誤ってアラームが鳴ることがあります。子どもたちがびっくりして起きてしまっては困ると、故意にアラームが鳴らない設定にするヒューマンエラーを生んだり、機械の性能が高まるにつれ、保育者が子どもを見ることなく、ベビーセンサーに依存する様子が増えてしまいます。
こういったことはベビーセンサーの使用に限ったことではなく、たとえば送迎バスの置き去り事故など、日々のルーティンワークの中で、運転手や添乗職員がわるぎなく作業手順を変更するなど、あらゆる場面で生まれやすく、事故の発生につながっています。目的をもって事故を回避できているつもりが、日々、何も起きないことに業務目的を忘れて過ごしてしまうことがないように、常に保育そのものを振り返りながら、ベビーセンサーも有効に活用していただきたいと思います。
