医療的ケア児の保育実施に備える

医療的ケア児の保育の未来に備え保育園看護師こそ喀痰吸引等研修(第3号)受講を

 平成30年度子ども・子育て支援推進調査研究事業として「保育所での医療的ケア児受け入れに関するガイドライン ~ 医療的ケア児の受け入れに関する基本的な考え方と保育利用までの流れ」(みずほ情報総研) が2019年3月に公表されました。その中身はというと、本ガイドラインの「ガイドラインの趣旨・目的」にあるように医療的ケア児の保育が当たり前となる未来を目指して「市区町村の取組を後押しするための」地方自治体に対する政策提言書となっています。

本ガイドラインの第2章「保育所における医療的ケアとは」に「適切かつ安全に医療的ケアを提供することはもちろんのこと、(中略)乳幼児期にふさわしい環境を整えることが求められる」等が書かれてはいるものの、実際の保育現場は看護師の常駐を条件に一足飛びに医療的ケア児の保育が実施されています。そこで「医療的ケアの提供のための衛生的な環境や安全確保の観点」における保育園看護師自身の研修の必要性や園内マニュアルの意義について考えます。

保育所での医療的ケア児受け入れに関するガイドライン
はじめに
すべての子どもを受け入れることをあたりまえにしなければならない

「受け入れる」とは、どういったことを指すのであろうか。まず、同じ場で生活できるようにすることが大前提となる。次に、体験を共有することである。同じ場で生活する中で同じことを体験し、それが自然と共有される。そして、感情を共有することである。同じ場で生活する中で体験を共有し、「楽しかった」「嬉しかった」「悔しかった」「悲しかった」といった感情を分かち合う。最後に、未来を共有することである。(中略)
本ガイドラインは、最初のステップである「同じ場で生活できるようにする」を目指して、日常生活を営むために医療を要する状態にある障害児(以下、医療的ケア児)の保育所での受け入れにあたり必要となる基本的な事項や留意事項等を示すことにより、各市区町村において、保育所での医療的ケア児の円滑な受け入れが図られることを目的とするものである

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保育所における医療的ケア児の保育の実施にあたって

本ガイドラインでいう保育所とは、児童福祉法で定められた「保育を必要とする乳児・幼児を日々保護者の下から通わせて保育を行うことを目的とする施設」(第三十九条)です。この保育所において医療的ケア児の保育を行なうためには、保育士等が社会福祉士及び介護福祉士法に基づく喀痰吸引等研修を修了し、たんの吸引等の業務の登録認定を受ける必要がありますが、勤務する看護師においては「医師の指示のもと」で医療的ケアを実施するものとされています。

では、すでに医療的ケア児の保育を実施している保育所において、保育士等の保育所職員が喀痰吸引等研修(第3号)を受講し、看護師を中心とした十分な環境整備が行なわれてから医療的ケア児を受け入れているかというと、その準備期間もないまま、地方自治体が看護師の常勤をもって保育所への入所を優先させるケースが散見されます。それだけが理由とは言えないものの、保育現場において残念ながら喀痰吸引等研修の必要性が認知されていない状況にもあります。

保育園看護師をふくむ喀痰吸引等研修(第3号)受講のすすめ

喀痰吸引等研修(第3号)の受講は保育所で保育する特定の医療的ケア児に対して(ひとりひとり個別対応ということ)保育士が定められた範囲の医療的ケアを実施するための基本要件のひとつです。受講しても即座に医療的ケアができるわけではなく、実施にあたって勤務施設の看護師から対象の医療的ケア児に対する医療的ケアについて、規定回数の指導を受ける必要があります。未受講でも医療的ケアが実施できる看護師にとっても保育士を指導するために必要です。

本ガイドラインにもあるように、医療的ケア児は「0~4歳の医療的ケア児は約6千人、5~9歳の医療的ケア児は約4千人が報告されて」おり、これから保育所における医療的ケア児の入所割合が増えることは自然な流れと考えられます。近い未来にわたって安全性を確保しながら医療的ケアと保育が提供されつづけるためには、受け入れと並行して保育園看護師もふくめた保育所職員の第3号研修受講者を増やし、現場が率先して組織的な取り組みを行なわなければなりません。

平成28年度厚生労働科学研究「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する調査」では、社会医療診療行為別調査をもとに、各種在宅療法指導管理料の算定件数の合計値を試算して、0~19歳の「医療的ケア児数」を算出した。それによると、「医療的ケア児」は年々増加傾向を示しており、2013年以降は15,000人を超過していることが示されている。また、NDBデータによれば、0~4歳の医療的ケア児は約6千人、5~9歳の医療的ケア児は約4千人が報告されている。

医療的ケア児の保育と保育園看護師の社会的課題について

本ガイドラインにもあるように、児童福祉法における努力義務として医療的ケア児に対する支援体制を積極的に整備するよう位置づけられたものの、同法上に関連して正規に「医療的ケアを担当する職員」として定められている(※)のは児童養護施設および乳児院に勤務する看護師であって、保育所の看護師は同法上で医療職としての業務の定めはなく、「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」における看護師免許を持った保育職だと解釈することができます。

(※)家庭支援専門相談員、里親支援専門相談員、心理療法担当職員、個別対応職員、職業指導員及び医療的ケアを担当する職員の配置について

看護師は、保助看法で診断ほか院外で医行為がほぼできない縛りがあります。にも拘わらず医療的ケアは医療法一般において明確な定めがなく特定の児童に対する生活援助行為の意味合いが強いことから、保護者と主治医、嘱託医(園医)との連携強化を条件に保育所においても常勤の看護師が診療の補助の一旦として医療的ケアを担うと解釈され、特に定めもなく取り扱われています。看護師が専門性を発揮して医療的ケアと保育を提供するには脆弱な社会環境です。

家庭支援専門相談員、里親支援専門相談員、心理療法担当職員、個別対応職員、職業指導員及び医療的ケアを担当する職員の配置について
第6 医療的ケアを担当する職員
1 趣旨
被虐待児や障害児等継続的な服薬管理などの医療的ケア及び健康管理(以下「医療的ケア」という。)を必要とする児童に対し、日常生活上の観察や体調把握、緊急時の対応などを行い医療的支援体制の強化を図ることを目的とする。
2 配置施設
医療的ケアを担当する職員を配置する施設は、医療的ケアを必要とする児童が15人以上入所している児童養護施設とする。
3 資格要件
医療的ケアを担当する職員は、看護師とする。

医療事故へのヒューマンエラーを防止する保育所の責務

話題を少し替えます。北海道苫小牧市の病院で患者が死亡した問題で、同院の看護師が業務上過失致死の疑いで書類送検されました。苫小牧民報によると「たんの粘り気を和らげる吸入器を看護師が誤って呼吸用チューブに装着。患者が呼吸できない状態」だったそうです。保育所において診療の補助として医療的ケアを実施すれば同様の責任が伴うと考えられます。思いもしないヒューマンエラーの発生リスクはゼロになることがなく医療的ケアも例外ではありません。

医療的ケアの実施にあたって何らかのヒューマンエラーが発生した場合、今までのような保育における事故というだけでなく医療事故に発展する可能性とともに、ケアにあたった職員の業務上過失が今以上に問われる場面も出てくることでしょう。只でさえ保育園看護師は看護師免許の保持が共通するだけで、保育所の入職にいたる経路や経験値、技能は十人十色です。そうした中で個別に異なる医療的ケアを継続的、安全に実施するかは保育現場に委ねられています。

「苫小牧市立病院、問われる安全管理 職員教育見直しへ」
苫小牧民報 2018/6/19配信
 今月起きた死亡事故は、呼吸のため気管切開の処置を受けていた患者のたんを吸引する際、たんの粘り気を和らげる吸入器を看護師が誤って呼吸用チューブに装着。患者が呼吸できない状態になった。看護師は2分後に異変に気付いたものの、患者は約2時間後に急性呼吸不全で死亡した。この看護師は気管切開の患者に対する吸入器の取り扱い経験がなかったという。

医療的ケアと保育の安全な実施に向けた方策

医療的ケア児の「受け入れのための体制整備」に至っては、地方自治体が児童福祉法における努力義務に従って医療的ケア児の家族について保育の必要性を認定しても、保育所との直接契約によって保育が提供されること、主治医とは家族を通じた間接的な指示が多くなるであろうこと、嘱託医は保育所との契約しだいで関係性が異なること等が医療的ケアのその責任の所在に影響することを考慮する必要があります。そのため市町村も交えた役割の明確化こそが必須です。

医療的ケアは「市区町村に所属する看護師が巡回して行う」・「保育所等を管轄する市区町村から委託を受けた訪問看護事業所や児童発達支援事業所等の看護師が行う」方法も示唆されているように、保育所から自治体に支援・協働を働きかけることも大切です。施設内においては「医療的ケア児のケアの内容と教育・保育の方法について、保育所長を中心に担当看護師、主任保育士、保育士等が各々の役割」(※)と指示系統に紐づく責任の所在をマニュアルに記しましょう。

(※)神戸市立保育所における医療的ケア実施ガイドライン(兵庫県神戸市こども家庭局)

神戸市立保育所における医療的ケア実施ガイドライン
2.医療的ケア実施関係者の役割
保育所において医療的ケアを実施する際には、保護者、主治医、嘱託医、市(区役所、こども家庭局)が緊密に連携を図る必要があります。また、施設内においては、医療的ケア児のケアの内容と教育・保育の方法について、保育所長を中心に担当看護師、主任保育士、保育士等が各々の役割を十分に意識してかかわることが必要です。
医療的ケア実施関係者の役割は、以下のとおりです。
(1) 保育所
① 保育所長 ~医療的ケアの総括管理~
保育所における医療的ケア児受入れについての総括的な責任者は保育所長になります。保護者や主治医との連絡の窓口になるとともに、保育所内で安全に医療的ケアが実施できるよう職員体制を組織することが必要です。

医療的ケア児の保育が当たり前な未来に向け研修の徹底を

保育所に看護師が常駐していれば、そのまま医療的ケアを実施することはできます。また看護師以外の職員についても医行為に当たらない範囲の援助は行なえます。しかし個々に障害の程度が異なる医療的ケア児に「適切かつ安全に医療的ケアを提供する」・「乳幼児期にふさわしい環境を整える」には、形式的なケアに留まることはなく、どのように医療的ケアを提供するか、その周辺部の援助においても保育と医療の両面から専門的な対応が求められることになるでしょう。

ここまでをまとめると、医療的ケアと保育を提供するにあたって各々の役割を明確化すること、および看護師と保育職の知識や技能のバラつきを組織としてまとめ、それぞれが専門性を十分に発揮するためにマニュアルの作成が必要とされています。それに留まらず医療的ケア児を交えた保育が当たり前な未来に向けて保育と医療を担う保育園看護師として、保育職を現場でよりよく導く(指導する)ためにも広く喀痰吸引等研修(第3号)を受講してくださることを願います。

  • 筆者紹介
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遠藤 登(危機管理アドバイザー)

1993年に保母資格と教諭免許を取得。幼稚園勤務等を経て保育所の園長職兼、子どもの傷病者対応を専門とした救命処置法の普及活動を開始しました。2011年お昼寝中に心肺停止した園児を救うことが叶わず現在の活動に至る。株式会社保育安全のかたち代表取締役/ 保育現場のリスクマネジメントをテーマとした書籍を執筆(単著・共著ほか)

書籍【保育救命】~保育者のための安心安全ガイド~

【読者の声】園で子どもたちをのびのびと遊ばせてあげたいけれど、安全面が気になってしまって、禁止ばっかりを作りがちでした。でも、ここにのっている、ハザードマップを作れば、事前に予防ができそうだし、とっても簡単なので、忙しい私たちでもできそうなので、早速やってみたいと思っています。 怪我の対処法も、チャート式で簡潔になっているのでわかりやすいです。かなりオススメですよ。【評価:★★★★★】

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