東京と大阪の保育施設で、うつぶせ寝を原因とした窒息で、同じく1歳の子どもが亡くなりました。睡眠中の安全について、保育の安全研究・教育センターの掛札先生がお書きになったので、突然死リスクの低減と異常の早期発見に対して参考になさってください。
睡眠中の安全(2016年4月14日)1)窒息死の予防
最低限0、1歳クラスでは、まず窒息死を予防する行動をします。窒息死は予防できる死亡であり、予防の取り組みをしなかった場合は過失を問われる可能性もあります。
引用:保育の安全研究・教育センター http://daycaresafety.org/
ここでは、その早期発見に大切な、睡眠時の呼吸の確認について、何を確認して、どこにつなげていくことがいいのか、「補助呼吸」に焦点を当てて考えていきます。ポイントは、止まったかどうか?の確認ではなく、また止まってなくても介入していいということです。
赤ちゃんの呼吸数の変化と補助呼吸について
まず、呼吸確認を考えるにあたって、呼吸についての理解を深めておきたいと思います。呼吸とは息を吸ったり、吐いたりしているだけでなく、赤ちゃんから大人まで、それぞれの年代別に呼吸数の「正常値」というものがあって、体調管理の指標となります。
年齢 | 呼吸数(/分) | 心拍数(/分) | 血圧(mmHg) |
乳児 | 35 | 120 | 90/60 |
幼児 | 25 | 110 | 100/65 |
成人 | 16~20 | 60~80 | 130/90 |
赤ちゃんや子どもは、まだ呼吸器官が未熟なので、大人にくらべて呼吸数が多くなっていることが判ります。簡単にいうと、この値を大きく下回ってしまうと、カラダ、特に脳にとって必要な酸素量が足りなくなって、その脳が機能障害を起こしてしまいます。
呼吸が弱々しいときは気道確保や人工呼吸は最初に行なう
カラダの中の酸素の状態というのは、一般に目に見ることはできません。しかし酸素が減少したひとつの証として、チアノーゼと呼ばれる顔色が悪い様子を見てとったり、呼吸数の変化を目安として、気道確保や補助呼吸という応急処置が行なわれます。
心臓や呼吸の動きが止まったか、止まったことが疑われる場合の心肺蘇生法でいうと、最初に胸を押しはじめて、そのあとで人工呼吸という手順ですが、呼吸が極端に弱々しかったり、動いているけど、正常値より回数がめっきり少ない場合は、その呼吸をサポートする目的で、呼吸が通りやすく気道確保をしたり、補助目的の人工呼吸を行ないます。
呼吸確認は止まったかどうかではなく異常かどうかが問題
確認が大事なことは誰もが知っています。でも、呼吸が止まったかどうかの確認が目的になると、「止まるかどうかも判らないのに」、「これまで何もなかったんだったんだから、今日も大丈夫だろう」、「反対に定期的に、しかも5分や10分という短時間に、くり返して見た方がいいという根拠を教えてほしい」という気持ちが芽ばえるかもしれません。
それについては、保育園のお昼寝の時間に、うつぶせ寝やお昼寝時間の窒息を原因に子どもが亡くなっています。過去にうつぶせ寝による事故が起きていたことを知っているのに、うつぶせ寝を放置したり、窒息事故に対応できていなかったということになれば、保育の安全研究・教育センターの掛札先生も書いていますが、理由はどうあれ、保育の注意義務を怠ったものとして過失を問われます。「だとしても、もうちょっと間隔が長くてもいいよね??」
普段通りの呼吸ができているかを5分前とくらべる
赤ちゃんのお昼寝時の呼吸は、もともと不安定なものです。まして、うつぶせ寝や横向きの寝姿だと、口もと周辺の二酸化炭素が高まりやすいことも判っており、呼吸は止まらないまでも、5分や10分前とくらべて、カラダにわるい影響をもたらす、異常な呼吸になることは考えられます。呼吸確認とは、その呼吸の「変化」を記録していく手段だといえます。
定期的に呼吸が安定しているかどうかを観察するにあたっては、「普段どおりかどうか」がポイントです。応急処置で普段通りではない呼吸というと、死戦期呼吸を指しますが、保育園では、個々の子どもに対して、いつも見ている通りの呼吸ができていなかったら、普段通りの呼吸ではない異常な呼吸として、処置が必要かどうかを判断します。
子どもの脳を守って心臓も止めさせないこと
カーラーやドリンカーの救命曲線が示すように、呼吸が止まってから5分~10分後には、カラダに残った酸素が失われて脳が機能障害を起こします。その結果、子どもが死を迎える危険性が高まります。このような子どもの心肺停止は、もっとも回避したい事態です。
子どもの心臓が止まってしまうと、治療を受けても、10%程度しか退院できません(蘇生ガイドラインより)。命が助かっても、重度の障害が残る可能性も高く、「万が一、子どもの心肺が停止したらどうする?」ではなくて、止めないように動く対策が大切です。
呼吸があったときこそ初期対応が重要
お昼寝時の子どもの睡眠チェックは、子どもの呼吸が止まっていることを確認することが目的のすべてではありません。普段通りの呼吸ができているかを定期的に記録し、呼吸の変調があったら、その異常な状態に対して処置を行なう、心肺停止を防止するための行為です。
体温を測ったり、保護者と協力して休ませてあげることだけが、保育者のできる体調管理ではありません。当たり前に呼吸をしている中で、「普段から何もないわけではない」子どもの様子を観察することこそ、本当の意味で子どもの命を守ることにつながります。
お昼寝時の窒息を発見した直後の対応はここに注意
一般に、事故発生直後の対応方法は、保育の安全ガイドラインにもあったように、まず反応の確認をしてから(反応がない状態で)、呼吸を確認しますが、お昼寝時の窒息事故の場合は、先に呼吸の確認があって、異常だと判断されてから反応の確認を行なうことになります。
手順が違うことで、人を呼んだり、119番することを忘れてしまいがちです。小さな違いですが、こういった流れを、落ち着いて、丁寧かつ迅速に進行できるには、やはり慣れと、周りの大人との協力が必要です。定期的に研修を受けてくださることを願っています。
プールあそびの溺水事故は窒息事故とはいえ背中は叩きません
最後に、蛇足ですが窒息事故の発見直後の手順の違いといえば、プールあそびに起こる溺水事故の処置も挙げられます。水を飲むことから、水を吐かせようと、お腹を押したり、背中を叩いたという報告がありますが、背中を叩く、水を吐かせる必要はありません。
自ら吐き出すこともなく、呼びかけに反応できないほどのときは、背中を叩いている時間すらも惜しまれます。その分、少しでも早く心肺蘇生法を開始することが望まれます。このようにシチュエーションによって手順は変わります。一緒に学んでいきましょう。
うつ伏せ寝の1歳児 企業設置の保育施設で死亡
4月12日 19時17分
企業が従業員のために設けた都内の認可外の保育施設で、先月、うつ伏せの状態で寝かされていた1歳の男の子が死亡していたことが分かりました。(中略)東京都によりますと先月11日、施設で昼寝をしていた当時1歳2か月の男の子が心肺停止の状態となり、搬送先の病院で死亡が確認されたということです。
男の子は、うつ伏せの状態で2時間以上寝かされていましたが、呼吸の確認は十分に行われず、異変が起きたあとすぐに人工呼吸などの救命救急の措置も取られていなかったということです。