保育指針の健康及び安全につながる保育の事故防止ガイドラインと省令の枠組み

2017年9月29日

 平成30年改定の新保育所保育指針では、保育の安全にまつわる「健康及び安全」が第5章(全7章)から第3章(全5章)へ移動するとともに、具体的な備えとして「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」でピックアップされた「睡眠中、プール活動・水遊び中、食事中等の場面」の重大事故に関する項目が追記されました。

保育指針に具体的な事象が記載されたということは、保育活動を通じて事故が発生した場合の対応だけに留まることなく、日ごろの保育そのものにおいて、安全対策が基盤にあると揺り戻る形で示されたと言っても過言ではありません。それらを念頭において第三章「健康及び安全」の記載につながった保育の事故防止ガイドラインと省令の枠組みについて考察します。

保育所保育指針(平成二十年第百四十一号)
第五章「健康及び安全」
保育所保育指針(平成三十年第百十七号)
第三章「健康及び安全」
2 環境及び衛生並びに安全管理
(二) 事故防止及び安全対策
ア. 保育中の事故防止のために、子どもの心身の状況等を踏まえつつ、保育所内外の安全点検に努め、安全対策のために職員の共通理解や体制作りを図るとともに、家庭や諸機関の協力の下に安全指導を行うこと。
2 環境及び衛生管理並びに安全管理
(2) 事故防止及び安全対策
ア 保育中の事故防止のために、子どもの心身の状態等を踏まえつつ、施設内外の安全点検に努め、安全対策のために全職員の共通理解や体制づくりを図るとともに、家庭や地域の関係機関の協力の下に安全指導を行うこと。
(旧指針に記載のない部分)イ 事故防止の取組を行う際には、特に、睡眠中、プール活動・水遊び中、食事中等の場面では重大事故が発生しやすいことを踏まえ、子どもの主体的な活動を大切にしつつ、施設内外の環境の配慮や指導の工夫を行うなど、必要な対策を講じること。
イ. 災害や事故の発生に備え、危険箇所の点検や避難訓練を実施するとともに、外部からの不審者等の侵入防止のための措置や訓練など不測の事態に備えて必要な対応を図ること。また、子どもの精神保健面における対応に留意すること。ウ 保育中の事故の発生に備え、施設内外の危険箇所の点検や訓練を実施するとともに、外部からの不審者等の侵入防止のための措置や訓練など不測の事態に備えて必要な対応を行うこと。また、子どもの精神保健面における対応に留意すること。

保育の事故防止ガイドラインと省令等の枠組み

保育所保育指針は「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(昭和二十三年厚生省令第六十三号)第三十五条の規定に基づき」保育内容が定められてきました。当該基準の第三十五条の規定とは「保育所における保育は、養護及び教育を一体的に行うことをその特性とし、その内容については、厚生労働大臣が定める指針に従う」ことと保育の運営方法が示されています。

合わせて保育所保育指針の「2 養護に関する基本的事項 (2) 養護に関わるねらい及び内容」には、生命の保持のねらいとして「一人一人の子どもが、健康で安全に過ごせるようにする」、「子どもの生理的欲求が、十分に満たされるようにする」とあることの意味を熟慮して、保育者は職務として安全な保育環境をつくるとともに豊かな保育を実践することが大切です。

厚生労働省告示第百十七号(平成29年度)
第3章 健康及び安全

保育所保育において、子どもの健康及び安全の確保は、子どもの生命の保持と健やかな生活の基本であり、一人一人の子どもの健康の保持及び増進並びに安全の確保とともに、保育所全体における健康及び安全の確保に努めることが重要となる。また、子どもが、自らの体や健康に関心をもち、心身の機能を高めていくことが大切である。このため、第1章及び第2章等の関連する事項に留意し、次に示す事項を踏まえ、保育を行うこととする。

特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業の運営に関する基準

平成27年度に子ども・子育て支援新制度がスタートしたことに伴い、「特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業の運営に関する基準(平成 26年内閣府令第 39号)」の第二十条に規定する「八. 緊急時等における対応方法」、「九. 非常災害対策」、「十. 虐待の防止のための措置に関する事項」を記載した運営規程について明確な形での提示が必要になりました。

同時に第32条第 1項第 1号及び第 50条の規定で、特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業者は、事故が発生した場合の対応等が記載された事故防止及び対応のための指針(安全管理マニュアル)を整備することが求められたことから、技術的な助言を目的とした教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドラインの作成にいたります。

保育指針の健康及び安全で注意喚起された重大事故

 教育・保育施設等における重大事故の再発防止策に関する検討会の最終取りまとめ(平成27年12月)を踏まえて、保育活動における特に重大事故が発生しやすい場面ごとに発生防止や損害の軽減につなげることを目的に、事故が発生した場合でも具体的な対応方法等の参考となるように、「【事故防止のための取組み】~施設・事業者向け~」と「【事故発生時の対応】~施設・事業者、地方自治体共通~」、そのほか地方自治体向けのみもふくめて作成されました。

「重大事故が発生しやすい場面」については、保育施設において死亡事故および重篤化するケースが多いとされる食事時間・睡眠時間・水遊び(プール活動)の3つについて取り上げています。この事故防止のための取組みの助言に基づき保育指針の「⑵ 事故防止及び安全対策」に新たに書き加えられたことを踏まえて保育者は発生防止について留意しなければなりません。

【事故防止のための取組み】~施設・事業者向け~
1 事故の発生防止(予防)のための取組み
(1)安全な教育・保育環境を確保するための配慮点等
安全な教育・保育環境を確保するため、子どもの年齢(発達とそれに伴う危険等)、場所(保育室、園庭、トイレ、廊下などにおける危険等)、活動内容(遊具遊びや活動に伴う危険等)に留意し、事故の発生防止に取り組む。特に、以下の1で示すア~オの場面(睡眠中、プール活動・水遊び中、食事中等の場面)については、重大事故が発生しやすいため注意事項を踏まえて対応する。

保育所保育指針の第三章を軸に子どもの最善の利益を築く

これら重大事故にいたったケースには、事故発生以前に保育者が子どもに対する危険性を感じていながら話題にすることもなく、子どもが放置され続けた背景があったり、保育者の個人的な資質のみで工夫して乗り切ろうと考えながらも、環境改善にいたらないうちに重大事故が発生したケースも散見されることからヒヤリハット報告の活用もあらためて述べられています。

「子どもにケガをさせてはいけない」と委縮しながら保育をする傾向にある中で、「子どもがケガをするのは当たり前。子どもは経験によって学ぶのだから教育効果を阻害するような過度な安全も望ましくない」とも考えられます。多様化する保育の新たな局面を迎えて、保育所保育指針を軸に養護と教育、子どもの最善の利益とのバランスを実現していきましょう。

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代表:遠藤/専門:保育の安全管理・衛生管理/保育事故の対策、感染拡大の予防、医療的ケア児ほか障害児の増加など医療との関わりが深まる一方の保育の社会課題の解決にむけて、保育園看護師の業務改革ほかリスク管理が巧みな保育運営をサポート

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