平成28年3月に公開された、「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」(以降、保育の安全ガイドライン)は、例示が多いかわりに、同様の内容を扱いながらも構成がバラバラのため、読んだ人が混乱する不安があります。そこで最初に保育の安全ガイドラインの中の、窒息時対応について情報の補足を行ないました。
その第2段として、方々に散りばめられた『事故発生時の基本的な流れ』を、市民用の一次救命処置の流れに重ねてまとめてみました。主に【発生時対応】の14ページと、15ページをもとに、【施設・事業者向け】の25ページと、34ページの情報を一緒にしています。
緊急時の役割分担と対応スキルの習得を行なう
緊急時対応において、役割分担が漠然としていることは、とても危険です。反対に、看護師が確認しないと次に進めなかったり、園長先生だけが119番するといった、この人でないと、あれができない、これができないといった、役割の固定も望ましくはありません。
「保育現場の「深刻事故」対応ハンドブック」には、看護師に特定の役割を与えるのではなく、責任者を補佐する役回りとして、同じように表の中にふくめることを示唆しています。事故発生時の流れを確認しながら、まず役割分担を明確にしましょう。
知識や技術を活用できるように実践的な訓練を行う
保育の安全ガイドラインには何度となく、「緊急事態への対応について教育の場を設け、日常において実践的な訓練を行う」ことがススメられています。ガイドラインを読むだけ、役割分担を決めるだけでは、本筋は見えませんし、実際に動くこともできません。
また、重大事故を想定した緊急事態の対応と言っても、子どもの心肺停止だけをイメージした、心肺蘇生法だけができればいいわけではなく、子どもの命を守ると同時に、事故にともなう大きな不安を取りのぞいて、穏やかに事態を収束する体制が求められます。
事故状況の把握からはじまる初期対応の大切さ
事故が大きいほど、早くケガをおった子どもの手当てをしようと考えますが、保育施設では安全に、迅速に子どもの手当てをするためにも、まず事故状況をすばやく確認して、ときに周辺にいる、ほかの子どもの安全確保を行なうことの方が優先されます。
事故によって、ひとりの子どもがケガをおったということは、同時にほかの子どももケガをおう可能性があります。二次災害が起きれば、対応が複雑になって、きっかけとなった子どもを助けることに集中できなくなったり、遅れてしまう可能性が高まります。
事故の「なぜ」を知りたい気持ちに応える状況把握
また、真っ先にケガした子どもに走り寄ってしまうと、発見者の視界が狭くなってしまうことも考えられます。特に子どもの命にかかわる深刻な事態が想像される場合ほど、見えないケガを見落とすことなく、よりスムーズに病院搬送までつなげたいところです。
何より、ケガをした子どもの保護者にとって、事故が起きてケガをしたことだけの報告は適当ではありません。「なぜ、うちの子が事故に合わなければいけなかったの?」という疑問に応えられる報告のためにも、第一に事故状況の把握を心がけましょう。
反応の確認で大きく流れが枝分かれする発生時直後の流れ
上記の図は、【発生時対応】の14ページと、15ページを下地にしました。14ページは「上尾市立保育所危機対応要領」から、そして15ページは「JRC蘇生ガイドライン 2015オンライン版」からという違いですが、同じ事故発生時の流れとして組み合うと、追記した反応の確認をした結果、反応が見うけられての流れが上尾市バージョンで、反応がない中での流れが、市民BLSのアルゴリズムだということが判ります。
この事故発生時の流れというのは、子どもに近づいて、ケガの具合がひどいから緊急対応をとるというより、近づく手前の見た目で、重大さを感じさせる、やばさ、異常さというものを見て取って、「事故状況を的確に把握する」ことから始まります。
小さなケガも事故と考えて同じ事故発生時の流れで動くことが大事
一般的には、子どもに近づいてから、そのケガの重症度を判断して、対応を決めていますが、ひとつひとつの動きを分解していくと、実は事態の大きさに関係なく同じ流れを踏んでいます。多くが近づいてからでも、判断が遅れることがないので、周囲や、子どもの反応の確認など、何も意識せずに近づいてしまっているだけです。
重大な事故が起きたときだけ、緊急時対応の流れに従おうと思っても、簡単に誰もができるわけではありません。リスクマネジメントを意識していただき、小さなケガも事故として、普段から当たり前に、頭で思い描く図として生かしてくださることを願います。