プール開きの季節が近づいてきました。プール開きは、どこの保育施設でも期待の大きなイベントです。それだけにプールあそびは、たのしいと同時に安全性も求められています。しかし、注意をしていても事故が起きることはあります。もし子どもがプール中に溺れても、深刻な事態にならないために、保育者が考えておきたい対応策を取り上げます。
まず、安全なプールあそびのために、引率・見守り役の保育者とは別に、「監視者」の人員追加が、つよく言われるようになりましたが、役割として、見守ることと何が違うのでしょうか。この見守る役割と、監視する役割の違いについて比較してみました。
プールあそびの見守りと、監視の役割の違い
平成28年3月に発表された、「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」に、事故の発生防止(予防)のための取組みとして、『プール活動・水遊びを行う場合は、監視体制の空白が生じないように』、職員間の役割分担について、『事前教育を十分に』行なった上で、監視者を配置することが記載されました。
保育現場で「監視」というと、観察や見守りと異なり、子どもの行動を見張って、何かを強制するかのようなマイナス面のイメージがつよい印象ですが、保育の重大事故を防止するための、注意義務に基づいた視点から、『監視者』をひもとくと、ガイドラインにも示されているように、子どもを見守る行為とは異なる大事な役割りが見えてきます。
子どもの命にかかわる、起きてほしくない出来事を見逃さないこと
いろいろな言葉での表現方法がありますが、保育する上で「見守る」とは、ここでは、『子どもの発達に望ましく、子どものやりたいことを引き出し保障する行為』ということにします。子どもひとりひとりの主体性を尊重し、子ども自らの力で目的を達成したり、問題解決する行動をサポートするような意味として、大きく外れてはいないと思います。
その、見守るに対して「監視する」とは、保育者が、子どもの命にかかわるような重大な事故を起こさないように注意する上で、プール活動の全体を通じて、『保育として起きてほしくない出来事(プールあそびだと、保育者の死角で溺れたり、大きなケガをするきっかけとなりかねない行動など)を見逃さない行為』だということができます。
教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン
「1.重大事故が発生しやすい場面ごとの注意事項について」
<Point プール活動・水遊びの際に注意すべきポイント>
・ 監視者は監視に専念する。
・ 監視エリア全域をくまなく監視する。
・ 動かない子どもや不自然な動きをしている子どもを見つける。
・ 規則的に目線を動かしながら監視する。
・ 十分な監視体制の確保ができない場合については、プール活動の中止も…
・ 時間的余裕をもってプール活動を行う。 等
プールの中のうつぶせの溺水と、あお向けの溺水
子どもの溺水事故といえば、浅い水深でも溺れたり、溺れたら気づけそうに思う近い距離に居ても、死角に入ってしまうと、溺れた様子に気づかないほど静かに溺れることもあります。絶対に溺れさせないことは難しい面もありますが、監視者が見逃さないと同時に、発見時の迅速な対応によって、重大な事故を防げる可能性が高まります。
浅い水深で、イメージほど騒がずに溺れる原因は、乳幼児の頭が重いことで、前傾姿勢での活動が多く、うつぶせで浸水することが多いためです。うつぶせで浸水すると、パニックになって筋緊張が高まり、起き上がるより先に反射的にカラダをそらせて、水から顔を上げた拍子に、口から大量の水を飲みこんで窒息や硬直に至ると考えられています。
うつぶせで浮いていたら、真っ先に119番通報と呼吸確認
一般に、「心肺蘇生法」の手順というと、反応の確認をして、反応がないと判ったら緊急通報をお願いして、そのまま呼吸の確認、呼吸がなければ胸を押しはじめると定まっています。しかし、発見した時点でうつぶせで浮いていた場合は、意識がある可能性は限りなく低いので、すぐさまプール脇に出すと同時に、119番通報を行なう手順へと変更します。
まず、溺れた子どもに真っ先に駆け寄りたいところですが、二次災害、三次災害(ほかの子どもの溺水事故)を防止するために、全体の子どもの安全を確保します。溺れた子どもを安定した場所に横たえることができたら、119番通報をして、呼吸確認に移ります。このように、うつぶせであるときは、最短の救助手順をたどれるように備えましょう。
プール事故の特徴をふまえた救助がが大切
反対に仰向けになって溺れた場合は、一気に顔まで沈むことのない程度の水深であれば、うつぶせに比べて、子どもに動きがあって、反応が見てとれるのではないかと思います。動きが見てとれないようなときは、頭を打ったことで意識障害を起こしている可能性があるので、ムヤミに動かさずに、手順どおりに、丁寧に反応の確認から進めていきましょう。
プールの溺水事故で、子どもが命にかかわる事態に至るのは、水を飲んだことをきっかけに窒息を起こすためです。だからか、溺水事故で救助するときは、子どものお腹や胸を押すなどして、飲んだ水を吐かせることをすすめる話が、あちらこちらに見られます。
溺水であっても呼吸器官がケイレンを起こして窒息する
しかし溺れたことで飲んだ水というのは、最初こそ気道に入ることはあっても、多くは食道へと流れていきます。気道に入った水の影響で窒息するのではなく、一気に水が入ってきたショックで呼吸器官がケイレンを起こして、呼吸が止まることに原因があります。
胸やお腹を押して、水を強制的に吐かましょうというのは、溺れて心肺停止した人に対して、迅速に蘇生処置をしたら、一時的に回復して、苦しさから水を吐き出した様子を、「胸を押して肺の中の水を押し出した」姿と勘違いしたものと考えられます。
自然な形で吐けるなら、吐けるだけ吐いたら保温につとめる
肺に入った水は吸収もされるし、胸を押したぐらいでキレイに体外には出てきません。お腹を押した場合も、水だけが出ることはなく、飲食物も押し出して窒息をつよめたり、内臓を傷つけることもあって、いいことはほとんどないので止めておくべきでしょう。
その分の時間を無駄にせずに、呼吸確認の時間にあてて、早々に次の行動に移ります。しかし、はっきりと子どもが気持ち悪がる素振りを見せて、自ら吐くようなら、吐けるだけ吐かせてあげましょう。落ち着きをみせたら、安静にしながら手早く水分をふきとって、大きなタオルなどで十分に保温をして、低体温と呼吸障害に備えて観察をつづけます。
プールへの携帯電話の持ち込みと、職員室での緊急電話
子どもが溺水事故で亡くなるのは、窒息したことで、呼吸が止まり、カラダの中の酸素が失われることに理由があります。カラダの中で最も大切な「脳」が酸素不足になって、傷ついて、最後に心臓が止まってしまいます。脳が傷つくと脳の回復は難しく、命は助かっても脳が損傷したまま、マヒなどの障害が残ってしまうことも考えられます。
溺水・窒息事故に対して、呼吸状態に合わせて人工呼吸を一緒に行なう救命処置ができた方がいいのは、脳を守るためであって、少しでも短い時間で、救急隊員や医師による処置に引き継がれることで、脳もふくめて元気な姿に回復する可能性が高まります。
溺水・窒息事故こそ、誰でも119番できる保育体制をつくることが必要
子どもがケガをして緊急通報をするとき、園長先生などの責任者の承諾が必要で、自然と職員室の固定電話から、119番する流れになっている保育施設が、たくさんあります。溺水事故に備える場合は、担当者の判断で119番する体制の検討が望ましいように思います。
慌てた保育者が、職員室に行くまでに転んでケガをしたら?職員室に責任者の姿がなかったら、どうなるでしょうか。プールがどこに設置されていようと、プールに行くときには、保育者は携帯電話をもっていくようにして、もし子どもが溺れることがあったら、その場にいる保育者の判断で緊急通報を行なうことが最善ではないでしょうか。
保育の危険を予知する義務と、危険を回避する義務
ここまで、プールで子どもが溺れた場合を想定した対策について書いてきました。監視者を置いて、保育者の死角で溺れるといったことを見逃さないこと。無理に水を吐かせることはしないが、子どもの脳を守るために、子どもの溺れ方によって、救助の手順をかえたり、その場から緊急通報する体制について考えてみていただきたいと思います。
保育は注意義務がともないます。注意義務とは具体的には、子どもにとって、事故が起きる可能性のある要因を見つけ出して、その子どもの命にかかわる、重大な事態へとつながらないように仕組み化することをいいます。それは応急処置ができることもふくみます。
再発防止につとめて、安全でたのしいプールあそびを実現しましょう
これまで、保育施設内のプールあそびにおいて何件も、子どもの命が失われる重大な事故が起きています。その多くが見通しの甘さや、事故が起きる可能性のある要因に対しての準備不足が原因です。事故を起こした保育施設が、保育者が特別だったわけではなくて、これからも、どの保育施設、保育者に対しても当てはまる可能性が、十分にあります。
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消費者庁の消費者安全調査委員会(消費者事故調)は20日、全国の幼稚園、保育所、認定こども園で、プールで子どもが遊ぶ際の職員による安全対策が不十分な施設が2割程度あるとみられる、との調査結果を発表
朝日新聞 2016/5/23