保育園児がひとり、お泊り保育の夜に入った温泉施設で溺れて意識不明の重体となる事故が起こりました。園児が溺れた湯船の中に大人は居らず、引率した保育所職員は溺れたところが見えていなかったと言います。
起訴内容によると引率した保育所職員は園児を湯船に残して、湯船が死角となった場所で自らの髪を洗っていたそうです。保育の重大な事故のひとつとして再発防止策を導くためのリスクマネジメントを考えていきます。
宿泊保育で男児重体 入浴中に意識不明
西予市宇和町明間の明間保育園(西谷邦子園長)が7月中旬に行った宿泊保育で、近くの市営温浴施設に入浴していた男児(6)が湯船で意識不明の重体となっていたことが11日分かった。男児は意識が戻っていない。(愛媛新聞社ONLINE)
お泊り保育の引率に必要なリスクマネジメント
全国でお泊り保育が行なわれています。温泉施設に連れては行かないかもしれませんが思い出をつくるための園外イベントは開催されています。引率に共通するリスクマネジメントが見えたら再発防止につながります。
同福祉会の清家浩之常務理事は「管理に問題があった。申し訳ない気持ちでいっぱいだ」と話している。(産経ニュース)
はたして、どういった管理に問題があったのでしょうか?非常に限られた情報で第三者が憶測で話をするのは危険もありますが、なるべく事実だけを見つめながら繰り返されやすいポイントを見つめてみたいと思います。
お泊り保育の参加人数比とリスクは比例しない?
一般に引率する保育士と、園児の人数比が大きいほど危険度は増すと考えられています。安全な保育を行なうためにも、国が定めた保育士の配置基準(※)が守られていますが、人数が少なくても事故は起こってしまいます。
年長児5人が参加。15日午後8時45分ごろ、「游の里温泉ユートピア宇和」の男風呂に20代男性保育士と一緒に入った男児4人のうち、1人が湯船に浮いているのを保育士と園児が発見した。
一泊二日のお泊り保育に参加した5人のうち、保育士と一緒に温泉施設に行ったのは4人でした。「保育士1人 : 年長児4人」という状況で事故が起きました。園児の数が少なくても事故は起きるという認識の必要性が分かります。
子供の年齢 | 保育士の配置人数 |
---|---|
0歳児 | 概ね3人に保育士1人~ |
1、2歳児 | 概ね6人に保育士1人~ |
3歳児 | 概ね20人に保育士1人~ |
4、5歳児 | 概ね30人に保育士1人~ |
園外保育の引率に必要なリスクマネジメント
明間保育園に近かったという游の里温泉ユートピア宇和は年間で延べ10万人弱が入場している市営の観光用施設です(西予市商工観光課「観光客数とその消費額」)。大浴場はガラス張りで泡風呂や水風呂が備わっています。
游の里遊ユートピア宇和は、温泉施設と朝霧湖を臨む景観の美しいキャンプ場があります。温泉は、地下600mから湧き出る良質の冷泉で、大浴場、サウナが完備されています(参考:西予市観光協会「観光情報」より)
お泊り保育中という特別な夜。保育園の外に出て、家にはない大きく観光客で賑わうお風呂に先生や友達と入るという状況に、普段以上に園児たちの賑やかな様子が想像されます。それは保育士にとっても一緒であったかもしれません。
湯船が見えない場所で保育士が自らの髪を洗う
園児が溺れたところを大人は誰も見ておらず原因は判っていません。観光施設ではありましたが、その時間にほかの入浴客はなく、引率者1名と園児4人だけで、引率した保育者も湯船の園児からは目を離していました。
男児が意識不明になった原因は分かっていない。
当時、湯船には重体となった男児を含む子ども2人、流し場には残る2人と保育士がおり、ほかに入浴客はいなかった。保育士は洗い場で洗髪中だった。湯船で溺れているのが仕切りで見えなかったとみられる。(産経ニュース)
なぜ湯船に2人、流し場に2人と園児を分けたかというと、「自身の洗髪に気を取られ(愛媛新聞社ONLINE)」たところからも、カラダを洗う組とカラダを冷やさないように湯船に残る組とに分けたことが考えられます。
仕切りとは、洗い場の隣近所に水しぶきが飛ばないように備え付けられたもので、大浴場のつくりからしても、湯船に背を向けたような姿勢で髪を洗うことになっていたはずで、事故が起きる認識が全くなかったと言えます。
保育で溺水事故を防止するための注意点
園内や園外を問わず保育現場では、水の深さや水場の広さに関係なく溺水事故が起きています。溺れると慌てたり、三半規管に傷害が起こって上下左右を見失い、泳げる人間でも溺れた状態から脱することができなくなります。
浴槽の水深は55センチで溺れる危険があった(愛媛新聞社ONLINE)
男児の母親(29)は「泳げるし潜りもできた子だった。なぜおぼれたかわからない。早く元の元気な姿に戻ってほしい」(朝日新聞)
泳げるし、潜ることもできた。何が原因だったにしても、それだけの能力がある6歳児であっても「溺れる」という認識は、プール事故の再発防止にもつながります。その他にも近くに居れば大丈夫ということもありません。
安全に救命する場をつくるリスクマネジメント
まだまだ事故が起きた場合に園内、園外を問わず119番をすることが遅く、救急車がくるまでの間も立ち尽くすだけの保育施設職員が多いと言われています。しかし、ただ心肺蘇生法ができればいいわけでもありません。
保育士らが心臓マッサージをする一方、救急車で西予市内の病院に運んだ。男児は意識不明の重体で、その後宇和島市内の病院に運ばれて手当てを受けているが、意識は戻っていない(朝日新聞)
「保育士が心臓マッサージを」行ない、救急車で運ぶまでの間に、他の3人の子どもたちのケアを誰が行なっていたかということも想像できることが、再発防止策を考える上でリスクマネジメントの大きなカギとなります。
傷病児を助けたいからこそ二次災害を防止
心臓マッサージができたのは称賛に値するように思いますが、保育の職務として全ての園児に対して安全に配慮する義務がある保育士にとって、救命している最中にほかの園児まで事故にあっていたのでは意味がありません。
同福祉会の管家一夫理事長(56)は「原因はわからないが保育士1人に任せたのがいけなかった。ご家族に心からおわび申し上げたい」と話した
浴室内では慌てることで保育士までも滑って転ぶかもしれません。早く集中して救命するためには、安全に行動できる状況を先につくり出すほか、無事な園児を連れ帰ったり、寄り添うなど並行する別行動への配慮も必要です。
思い出深いお泊り保育のためのリスクマネジメント
今回は、たった4人だから、6歳児だから子どもを湯船に残して少しぐらい目を離しても大丈夫だろうと、園児の人数を起点に『男性保育士ひとりでできること』を園長を含め、職員すべてが考えていたことが想像できます。
お泊り保育の引率や見守りについて話し合うには、園内と同じに考えたり、管理する側から何ができるかを考えては適切な答えは出ません。リスクが最大に働いた場合の状況から、どのように安全をつくるかを計画しはじめます。
元保育士は業務上過失傷害罪で略式起訴に
宿泊保育中の男児(7)が重体となった事故で、西予署は12日までに、業務上過失傷害容疑で近くの明間保育園の園長(59)と引率の同市野村町阿下、生活支援員元保育士(29)を松山地検宇和島支部に書類送検。
宇和島区検は園長を嫌疑不十分で不起訴処分とし、業務上過失傷害罪で元保育士を宇和島簡裁に略式起訴、簡裁は罰金30万円の略式命令を出した(愛媛新聞社ONLINE)
最後になりますが、意識不明のお子さんの回復を心より願ってます。