保育園給食の高温スープを1歳児にこぼさせた火傷事故の要因の予測と再発防止策

2018年9月23日

 愛知県知多市にある保育園で1歳児が大やけどを負うといった事故が発生しました。会見によると「子どもの手の届く範囲にカートを入れたのは落ち度があった。救急車を呼ぶべきだったが、職員の車で搬送してしまった」そうです。また保育士が目を離した隙に、給食を運んだワゴンの上の鍋に1歳児が手を伸ばしたことでスープがこぼれたことから、知多市幼児保育課からは給食用のワゴンを子どもに近づけない、スープの温度を下げるといった指導が行なわれています。

子どもが高温火傷を負うといったような事故は、ほかの種類の重大事故に比べてきっかけとなりうる事柄が予測しやすく、保育施設は子どもがやけどを負う事故を回避する対策が不可欠です。そこで幼児向け給食に必要な安全配慮やスープが運ばれるプロセスにおける組織運営のポイントといった、給食時間のやけど事故を防ぐための環境要因について詳しく見ていきます。

 愛知県知多市の市立保育園で先月、園児が給食でやけどを負ったにもかかわらず、市は公表していませんでした。
 知多市によると7月18日、市立南粕谷保育園で女児(1歳8か月)が給食を運ぶワゴンの上の鍋に手をのばし、スープが首や腕などにかかりました。女児はやけどをし1週間入院しましたが、知多市は事故をすぐに公表しませんでした。
出典:中京テレビ(2018/8/7)

事故予測に基づく保育の見通しと給食配膳の際の安全配慮

再発防止策

  • 園児に食缶等を1ⅿ以内に近づけないようにしました。
    (子どもを着席させた後に、配膳車を保育室の外に止め、鍋等を個々に持ち、園児から1m以上離れた位置を通り、搬入することにしました。)
  • 給食の温度を40℃程度に下げ、確認後搬入することにしました。

 以上は、知多市幼児保育課が指導したという再発防止策です。まず園児に対して「食缶等を1ⅿ以内に近づけない」ようにしたというのは、事故原因のひとつとされた保育室の「園児の活動範囲」内に配膳車を入れたことによる反省から。そして「給食の温度を40℃程度に下げ、確認後搬入する」というのは、温度が70度だったスープの扱い方に対する改善策です。

事故の原因及び問題

  • 園児の活動範囲に鍋の乗った配膳車を入れてしまったこと。
  • 園児が鍋に手が届くような状況であったこと。
  • 保育士が配膳車から目を離してしまったこと。

ここで明確にしておきたいことは、「0歳児・1歳児の保育室」の園児の活動範囲で「園児が鍋に手が届くような状況」をつくったのは配膳車を搬入した保育者の落ち度だけではないこと。配膳車が入ったという『園児の活動範囲』自体が、搬入される間に保育室で園児を見守っていたはずの保育者の、監視が空白になった結果が影響していたと考えられるからです。

給食の搬入担当者と園児の監視担当者それぞれの役割

0歳・1歳児が自ら危険の回避はできませんが、保育室で給食の搬入を待っていた側の保育者にとって配膳車に園児が近づけば事故が発生する危険性を想定することは難しくありません。『搬入時には注意する』といった曖昧さは捨てて、園児の活動範囲が配膳車の侵入経路に重ならない環境設定に加えて子どもの行動を監視しつづける配慮が望ましい姿だったと言えます。

「子どもを着席させた後に、配膳車を保育室の外に止め、鍋等を個々に持ち、園児から1m以上離れた位置」を通る改善策においても、たとえば搬入の際に扉付近の安全を確認しつつ室内の保育者に声をかける、そして扉付近に子どもが居ないことが両者の間ではっきりと確認されてはじめて搬入を促す。保育室では子どもが搬入作業以外に関心をもてる保育活動に加えて、搬入経路に子どもが入っていかないことを監視する等の見通しをもっての実施が求められます。

給食調理の役割と給食運搬における業務連携の不足

ここまで保育者の行動における要因を考えてきました。しかしどれだけ保育者が監視等の行動に配慮していたとしても「給食の温度を40℃程度に下げ、確認後搬入」するよう指導があったように、そもそもスープが熱いままでは別の形で事故が発生する不安はぬぐえません。では温度を確認するのは誰が適当かといえば、まずは保育者ではなく調理した調理員でしょう。その後に配膳車を運ぶ保育者とともに二重確認してから搬入しはじめる段取りが考えられます。

一般に保育園給食というと、子どもたちが健康な生活が送れるよう栄養面に配慮した食事づくりが求められます。しかしおいしい給食をつくることだけが調理業務で、つくりたてを提供したら運ぶこともふくめてその先は保育者側の仕事というように切り分けて考えていたなら修正する必要があります。調理員も同施設の職員として安全に配慮する義務があるからです。

第2章 学校給食の意義と学校給食従事者の役割
平成 21 年に改正された学校給食法にその目的として、「学校給食が児童及び生徒の心身の健全な発達に資するもの」「学校給食の普及充実及び学校における食育の推進を図ることを目的とする。」と極めて有効な教育的役割が期待されており、この目的を実現するために次の目標が達成されるよう努めなければならないとされています。
出典:学校給食調理従事者研修マニュアル(文科省)

給食運営の「自園調理方式」と民間調理委託の問題点

 保育所保育指針の第三章「健康及び安全」に『保育所保育において、(中略)一人一人の子どもの健康の保持及び増進並びに安全の確保とともに、保育所全体における健康及び安全の確保に努める』とあるように、保育施設職員ふくむ保育事業者は、子どもの最善の利益を考慮する上で、まず子どもの生命の保持および安全の確保を前提に保育が実施される必要があります。

市立南粕谷保育園では民間に調理業務が委託はされているものの「自園調理方式」で給食運営が行なわれています。契約内容は判りませんが、敷地内で調理して自園の園児に給食を届ける以上、1歳児にとっての食べやすさへの配慮に加えて、1歳児はこぼしやすい年齢でもあることから安全面における温度管理も調理員の重要な業務です。特に安全に配慮する部分の業務については調理員だけが行なうものではなくて、担当する保育者と連携することで強固なものとします。

保育園給食の委託
出典:知多市役所幼児保育課(2017年4月1日)
知多市では公立保育園12園すべての給食運営は「自園調理方式」で行っています。民間調理委託の内容は、調理業務、衛生管理等になり、献立の作成は、幼児保育課管理栄養士が行っています。
食材の発注等の業務については、全園市直営で行い、今後もおいしい給食を提供してまいります。

保育園給食の火傷事故の C-SHEL 分析モデル

S:ソフト面・保育士が配膳車から目を離したことの裏にある、子どもの活動範囲を見誤ったこと。
※「事故を起こさない」という程度の注意は行なっていたものと考えられる。
・高温スープを運ぶにあたって事前に危険性の想定ができておらず、搬入・待機の保育者および調理員ともに安全配慮に欠けていたこと。
・救急車を呼ばなかったこと。
※ 事故発生時の応急処置についての知識と保育体制の欠如にもつながる。
H:ハード面・園児の活動範囲に鍋の乗った配膳車を入れてしまったこと。
・園児が鍋に手が届くような状況であったこと。
・スープの温度がやけどとなる温度であったこと。
E:周辺環境※ ただ調理する、ただ子どものもとへ運んで食べさせるではなく、調理員は調理し終えた内容を伝える、保育者はつくられたままにせず、温度管理などに不備があれば調整を依頼して互いに連携して安全に配慮する仕組みが欠けていた。
L:人的配慮※ 事故防止ガイドラインに基づく、調理員を含めた保育施設の職員に対する安全教育に欠けていた。(安全管理マニュアルの不備も考えられる)
C:園児特性1歳児。運動能力ほか認知力ともに自ら危険回避はできない。
保育室に入ってきた配膳車への興味関心が勝り手を伸ばす。

給食運営における保育園の監督責任と職員教育

除去食等のつくりわけがなければ給食には献立があるのだから、調理内容について調理員から都度教える必要もないと考えていたり、つくられたままの給食を子どもの前に出すだけが保育者の仕事になっていたとしたら、それは組織運営における管理監督の問題でもあります。保育全般の安全対策について各職員の個人的な経験則や意識を高めて行なうものではなく、組織運営の一環として安全管理マニュアルにある仕組みを通じて一体的に取り組む必要があるためです。

目が離れてしまった背景には、調理員が献立を対象児に合わせて調整(温度管理)することなく、調理済み給食の状態について調理員から保育者に伝える仕組みや、保育者から必要に応じて調整してもらう互いの役割が欠けていました。さらに搬入する担当、子どもと保育室で待機しながら子どもの活動範囲を監視する役割の保育者間で具体的な対策がなかったことなども考えられ、それらは「特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業の運営に関する基準」において事故発生防止のための指針を整備して実施していく運営側の問題として認識を深めなければいけません。

中等症の火傷事故における応急処置と搬送の判断

 最後に、事故発生時の対応について。本件は首や腕などをやけどして1週間入院するほどの深手であったにも関わらず、救急車を呼ぶことなく職員の手で被害児童を病院へ搬送しました。本件とは異なりますが保育施設の事故において、やはり救急車を呼ばずに職員の勝手な判断で病院に搬送して、適当な治療を受けられずに再搬送されるなどした結果、死亡した事例があります。119番通報する必要のある受傷の重さの見極めが行なえるようになりたいところです。

分類深度と面積(特殊部位の有無)対応の仕方
軽症II度15%未満、またはIII度2%未満初期は外来で治療可能
中等症II度15~30%、またはIII度2%~10%
(顔・手・会陰を含まない)
一般病院での入院治療
重症II度30%以上、またはIII度10%以上
特殊部位(顔・手・会陰など)の熱傷
気道熱傷、化学損傷、電撃症など
救急センターでの集中治療
http://www.jsbi-burn.org/ippan/chishiki/outline.html

表のうち重症と中等症は入院治療レベルです。重症はすぐに救急車を呼ぶべきで、中等症でも状況によって救急要請して構いません。冷却後の応急処置、病院前診断と搬送先の選別は救急隊が行います。

出典:一般社団法人 日本熱傷学会

やけどは受傷範囲も大切ながら高温に触れたことによる受傷の深さについて考慮される必要があります。受傷が首であれば呼吸に影響することも考えられました。まして本件は鍋ごと1歳児のカラダに落ちたので、広範囲にわたる重症化が想像され、早期の治療を促すとともに、搬送の必要性すらも消防局の口頭指導に委ねて全く問題のないレベルだったと考えられます。

火傷事故は冷えピタではなく流水で十分に冷やします

本件は「すぐに保育室内の沐浴室にて、流水で患部を冷やすなど」行なわれたそうです。やけどの応急処置は時間が勝負です。木浴室のシャワーが使われたものと思いますが、見えるところだけでなく服の上から一気に全身を冷やすことが必要だったことでしょう。応急処置において冷やす場合は目に見える患部だけでなく周辺までを一体的に冷やすことが求められます。軽そうなやけどでも冷却ジェルシートを貼るのではなく(効果はないので)流水で冷やしましょう

本件は1歳児が高温やけどを負いました。保育施設に至っては給食スープやストーブというように、「高温やけどを負う危険性が高いとの予測が容易につくモノ」を保育所職員が意図して準備することになるため、計画段階から最も安全対策が立てやすい事故だということができ、是が非でも防いでほしい事故です。もう類似事故が発生しないように、単に気にかけるのではなく、火傷事故について施設内研修を行ない事故を抑制する仕組みづくりをお願いいたします。

南粕谷保育園における園児のやけど事故について
出典:知多市役所幼児保育課(2018年8月10日)

 この度の南粕谷保育園における園児のやけど事故については、やけどを負った園児は現在も治療中であり、一日も早いご回復をお祈りするとともに、ご家族の皆様には、心よりお詫び申し上げます。

1 事故の概要
 7月18日(水)11時頃、南粕谷保育園において0歳児・1歳児の保育室に配膳車で後ろ向きに給食を搬入していた保育士が後方を確認した際に、1歳の女児がスープの鍋に手をかけ、スープをかぶりやけどを負う事故が起きました。すぐに保育室内の沐浴室にて、流水で患部を冷やすなど応急処置をして、西知多総合病院へ搬送しました。

2 園児の状況及び保護者への対応
 園児は1週間入院し、園児のストレスを考慮し、現在は通院治療中です。

 保護者の方とは治療費等今後の対応についてお話をさせていただいています。

 全園の保護者に、8月8日(水)に事故についての報告文書を配布するとともに、南粕谷保育園児の保護者の方へは、保護者説明会を開催し、今回の事故の概要及び事故防止に向けた対応についてご説明させていただきました。

3 事故の原因及び問題
・園児の活動範囲に鍋の乗った配膳車を入れてしまったこと。
・園児が鍋に手が届くような状況であったこと。
・保育士が配膳車から目を離してしまったこと。
・スープの温度がやけどとなる温度であったこと。
・救急車を呼ばなかったこと。

4 再発防止策
 保育園は、お子様や保護者の皆様にとって、安心、安全に預けられるべき場であり、二度とこのような事故が起きないよう以下の対策を行いました。

・園児に食缶等を1ⅿ以内に近づけないようにしました。
(子どもを着席させた後に、配膳車を保育室の外に止め、鍋等を個々に持ち、園児から1m以上離れた位置を通り、搬入することにしました。)

・給食の温度を40℃程度に下げ、確認後搬入することにしました。
今後も更なる対策を続けていきます。

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代表:遠藤/専門:保育の安全管理・衛生管理/保育事故の対策、感染拡大の予防、医療的ケア児ほか障害児の増加など医療との関わりが深まる一方の保育の社会課題の解決にむけて、保育園看護師の業務改革ほかリスク管理が巧みな保育運営をサポート

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