保育現場で使える応急手当

保育園の空間除菌商品の購入予算は子どものおやつ代に回すのが適当な理由

 インフルエンザやノロウイルスが流行る時期になると、置くだけで空間除菌ができるという商品が毎年のように売りにだされ、購入する保育施設も少なくありません。「置くだけ」で感染予防ができるなら、保健衛生的にとてもありがたいことですが、残念ながら国民生活センターほか消費者庁が置くだけの空間除菌商品に根拠はない(効果がない)と結論付けました

ただの「雑貨」として売られていながら、保育施設で予算をとってまで購入するのは、過去に「次亜塩素酸ナトリウム」が使用された空間除菌商品があったことや、「二酸化塩素」に対する保育関係者がもつ過度な期待があるためと考えられます。二酸化塩素といえば、ほかにも亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸水といった次亜塩素酸ナトリウムと混同されながら保育施設で普段使いされる消毒剤も多数あるので、望ましい使い方ができるように調べた結果をお届けします。

消費者庁 News Release「二酸化塩素を利用した空間除菌を標ぼうするグッズ販売業者17社に対する景品表 示法に基づく措置命令について」(2014.3.27)

「置くだけ空間除菌」は根拠なし 消費者庁が措置命令(2014年3月27日:朝日新聞)
 消費者庁は27日、空気中に放出される二酸化塩素の効果で生活空間の除菌・消臭ができるとうたう空間除菌グッズは効果を裏付ける根拠がないとして、景品表示法に基づき、販売元の製薬会社など17社に表示変更などを求める措置命令を出した。「首からぶら下げるだけ」「部屋に置くだけ」で除菌できると宣伝するのは同法違反(優良誤認)にあたると判断した。

そもそも論として保育施設は飛沫感染や接触感染こそ生じやすい

 感染防止の話題なので本題に入る前に「保育所における感染症対策ガイドライン」を確認しなおしました。読みはじめに目に入った「保育所における乳幼児の生活と行動の特徴」によると、「子ども同士が濃厚に接触することが多いため、飛沫感染や接触感染が生じやすい」とあります。そもそも空間除菌に期待することが、早くも否定される結果となりました

空間除菌商品とは、空気中を漂っているであろうウイルスに対して放出された塩素系成分で除菌することを期待するものですが、もちろん保育施設でも空気感染を否定することはできないものの、より「留意が必要」なのは直接的な飛沫感染や接触感染といった感染経路であって、残念ながら放出された塩素系成分だけでこの飛沫感染や接触感染の防止はできません。

保育所における感染症対策ガイドライン(2018 年改訂版)

2頁(保育所における乳幼児の生活と行動の特徴)
・集団での午睡や食事、遊び等では子ども同士が濃厚に接触することが多いため、飛沫感染や接触感染が生じやすいということに留意が必要である。
・乳幼児が自ら正しいマスクの着用、適切な手洗いの実施、物品の衛生的な取扱い等の基本的な衛生対策を十分に行うことは難しいため、大人からの援助や配慮が必要である。

空間除菌に過度な期待をせず正しい知識や情報に基づき対応する

ほかガイドラインには「医師から診断された子ども」だけではなく、「症状が消失した状態」でも「ウイルスを排出」していたり、「感染しているにも関わらず、明らかな症状が見られない不顕性感染者」が保育施設にはいるので、「それぞれの感染症の特性を考慮」しながら、「感染症に対する正しい知識や情報に基づき、適切に対応する」大切さが記載されています。

保育施設で広く感染症が流行するには乳幼児同士の接触だけでは足りず、多くの子どもの服を替え、トイレに同行し食事を介助する保育者の存在が大きいことも判っています。保育者自身が手や服にウイルスを付着させた媒介者として保育施設中にウイルスをばらまく可能性こそ高く、保育者の責務として感染症対策ガイドラインの理解を深め、まずは保育者個々の身の回りから配慮する地道な感染防止策こそが保育施設で感染症の流行を阻止できる近道だといえます。

あらためて空間除菌商品と二酸化塩素の有効性についての考察

 過去には「首にかけるだけ」の空間除菌商品がありました。アルコール殺菌が効かないノロウイルスに有効な次亜塩素酸ナトリウムが使用されたことで空間除菌商品の最大のけん引役となりましたが、効果が出る以前に、使用者が化学熱傷を負う事故が複数件発生したことで回収・販売停止になりました。成分に効果があっても使われ方次第ということが判る事例です。

しかし現在も類似商品が売られています。これら空間除菌商品とは複数の実験的研究から報告された内容をもとに「放出された塩素系成分で空間を除菌する」効果が証明されているとして製造されていることから完全な否定にはいたっていません。そこで日経メディカルに掲載された『「空間除菌」に感染症予防効果は期待できる?』という記事内容を参考にしながら、あらためて空間除菌商品と二酸化塩素の実態に迫りつつ、保育施設で必要な感染予防について考えます。

消費者庁 News Release「次亜塩素酸ナトリウムを含むとの表示がある「ウイルスプロテクター」について(使用中止及び自主回収のお知らせ)」

首からぶら下げるタイプの携帯型空間除菌剤「ウイルスプロテクター」については、去る平成 25 年2月 18 日、化学熱傷を起こすおそれがあるため、使用中止を呼び掛けたところです。この度、事業者が消費者庁と厚生労働省の要請に応じ自主回収を行うことを決定したので、その後の最新の事故の発生状況等をあわせてお知らせします。
消費者の方は、化学熱傷が起こることがあることから、直ちに使用を中止するとともに、下記窓口に御連絡ください。

空間除菌に過度な期待をせず客観的な情報に基づき対応する

空間除菌商品は『医薬品でも医薬部外品でもない「雑貨」』で、人の周りにバリアのような幕で空間をただようウイルスからガードしているかのようなイメージ画像を使って視覚的にうったえているケースも目立ちますが、手のひらサイズの商品から放出された二酸化塩素ガスが、ウイルスを寄せ付けないほど保育室の空間を隈なく包み込むことがないばかりか、汚れなどとともに子どもに付着したウイルスを、体に害もなく殺菌消毒するほどの濃度をもってもいません

二酸化塩素ガスによる空間除菌商品の微生物除去効果(その1)

2009年に発表された論文1では、乾燥環境下におけるに二酸化塩素のウイルス除去効果はあまり明確ではないということが分かっている。相対湿度が50%前後で、標的微生物が乾燥状態にある場合、8ppmという高濃度の二酸化塩素ガスを24時間曝露させてもウイルスの十分な不活化は確認されてはいないのだ。つまり、それ以降に有効性について報告した論文では、二酸化塩素ガスの効果が得られるよう、実験環境に配慮されていた可能性がある。
日経メディカル掲載『「空間除菌」に感染症予防効果は期待できる?』より

・・・

酸化作用で殺菌する場合、ある程度の濃度の水溶液に直接浸したり、洗浄して汚れを除いてから残ったウイルスや菌に直接噴霧して殺菌します。空間除菌商品のように感染症が流行しやすい冬場の環境下で塩素系成分を拡散させた効果は実証されておらず、「湿潤環境下において、十分な二酸化塩素ガスの濃度が維持できれば、空間除菌商品の微生物除去効果は期待」できるかもしれないが、そうすると子どもの粘膜に炎症などを引き起こす危険性が浮上してしまいます

 そもそも、かぜを引き起こすウイルスやインフルエンザウイルス、ノロウイルスの感染経路は接触感染である。エアロゾルによる飛沫感染もあり得るが、例えば、ノロウイルスでは極めて少ないウイルス量の曝露でも感染が成立してしまうこともあり6)、空間除菌商品の感染症予防効果は極めて疑問である。
日経メディカル掲載『「空間除菌」に感染症予防効果は期待できる?』より

子どもの最善の利益を考慮するに相応しい安全管理をする

 2012年にインフルエンザ対策を目的として、強アルカリ性消毒薬の次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする哺乳瓶消毒剤の希釈溶液を超音波加湿器に入れて、子どものいる保育室空中に噴霧していた保育施設のニュースがありました。加湿器とセットだった「次亜塩素酸水」と名前の似た次亜塩素酸ナトリウムを、薄めれば同じものになると混同して誤ったもので、標準的な予防策に加えて感染防止の効果を少しでも高めたい現場の事情を加味しても杜撰な対応といえます

幸い健康被害は出なかった模様ですが、保育施設にはアトピー性皮膚炎等の肌に症状をもっていたり、ほこり等だけで過敏に呼吸器官が反応する子どもも少なくない状況にある中で、単純な勘違いや“うっかり”で決して済ましてよいものではありません。ほかにも嘔吐処理に用いた消毒剤を保育者が手洗い場に置いたままにしたことで色水あそびの素材と混同して手に取った子どもが傷害を負うといった事故も発生しているため、消毒剤の扱いには徹底した安全管理が必要です。

保育所における感染症対策ガイドライン
別添 1 保育所における消毒の種類と使い方
(5) 消毒液の管理、使用上の注意点
消毒液は、感染症予防に効果がありますが、使用方法を誤ると有害になることもあります。消毒液の種類に合わせて、用途や希釈等正しい使用方法を守ります。

  • 消毒剤は子どもの手の届かないところに保管する(直射日光を避ける)。
  • 消毒液は使用時に希釈し、毎日交換する。
  • 消毒を行うときは子どもを別室に移動させ、消毒を行う者はマスク、手袋を使用する。
  • 希釈するものについては、濃度、消毒時間を守り使用する。
  • 血液や嘔吐物、下痢便等の有機物は汚れを十分に取り除いてから、消毒を行う。
  • 使用時には換気を十分に行う。

保育施設内外の清掃や殺菌消毒、正しい手洗い等を見直す

ここまでで保育施設は「飛沫感染や接触感染」が生じやすく、空間除菌の成分そのものは相応の濃度であれば殺菌効果があり、その商品は閉鎖空間の湿潤環境下においてこそ効果を発揮することが判りました。とても残念ながら購入機会が増える冬季の保育園では期待できないといえます。「保育を必要とする子どもの保育を行い、その健全な心身の発達を図ることを目的とする児童福祉施設」(保育所保育指針)としてイメージだけに惑わされない対応が求められます

保育施設では子どもの健康(生命)の保持と安全の確保に必要な役割を深く理解しながら、施設内に感染症が発生すると蔓延しやすいことをふまえて「入所する子どもの最善の利益を考慮し、その福祉を積極的に増進することに最もふさわしい生活の場」(保育所保育指針)として、感染症対策ガイドライン等を参考にした感染症予防対策の実施が求められています。何をおいても多くの病原体が子どもや保育者の手を介して感染を広げていくことを常に思い起こして、あらためて保育施設内外の清掃や殺菌消毒、正しい手洗い等の標準予防策の徹底を見直していきましょう。

 ある保育園から相談されたのは、超音波加湿器による室内空気の噴霧消毒の是非。現場に行ってみると、強アルカリ性消毒薬の次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする哺乳瓶消毒剤の希釈溶液を超音波加湿器に入れ、園児のいる保育室空中に噴霧していた。理由は「インフルエンザ予防のため」。確かに、インフルエンザウイルスに対して次亜塩素酸ナトリウムは有効な消毒薬の1つだが「毒性を考えると、噴霧は非常に危険と思われ、すぐに止めてもらった」と尾家氏。「消毒剤と加湿器がセットになっている商品も売られているようだが、噴霧してどれほどの効果があるかは疑問だし、何より人体への悪影響が心配される。基本的に消毒剤の噴霧は望ましくない」と注意を呼びかけた。「もしインフルエンザ感染予防のために室内消毒するのであれば、次亜塩素酸ナトリウムと同じくインフルエンザウイルスに有効で、毒性は低い消毒用エタノールを使ってテーブルなどの上を清拭するのは効果があると思われる」とした。

日経メディカル掲載「インフルエンザ対策? 保育園で次亜塩素酸ナトリウム溶液を加湿器噴霧」より

書籍【保育救命】~保育者のための安心安全ガイド~

【読者の声】園で子どもたちをのびのびと遊ばせてあげたいけれど、安全面が気になってしまって、禁止ばっかりを作りがちでした。でも、ここにのっている、ハザードマップを作れば、事前に予防ができそうだし、とっても簡単なので、忙しい私たちでもできそうなので、早速やってみたいと思っています。 怪我の対処法も、チャート式で簡潔になっているのでわかりやすいです。かなりオススメですよ。【評価:★★★★★】

【読者の声】保育現場のケガの手当て、事故対応の決定版といえる1冊。チャート式で、緊急時に何をしたらいいかの判断がわかりやすいと大好評。ハザードマップをつかったヒヤリハットの対応から、不安の大きな保護者対応まで、これ1冊で準備できます。【評価:★★★★★】

  • 筆者紹介
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遠藤 登(安全管理研修担当)

1993年に保母資格と教諭免許を取得。幼稚園勤務等を経て保育所の園長職兼、子どもの傷病者対応を専門とした救命処置法の普及活動を開始しました。2011年お昼寝中に心肺停止した園児を救うことが叶わず現在の活動に至る。株式会社保育安全のかたち代表取締役/ 保育現場のリスクマネジメントをテーマとした書籍を執筆(単著・共著ほか)

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