さいたま市保育園のプール死亡事故の報道から見えた危機管理の問題点

2017年8月27日

 2,016年7月に発生した認定こども園のプール事故につづいて、2,017年8月にさいたま市にある保育所プールで重大事故が発生しました。前者の事故が、33人の園児が50センチ以上の水かさのプールに入水し、保育者が2名だけであったことが事故を防げなかった原因のひとつとして検証報告が行なわれたものの、教訓は生かされることがないまま死亡に至りました。

監視担当であった保育者2名ともが、子どもたちが入水している最中にプールに備え付けてあった滑り台の片付け作業を行なったそうで、子どもたちから目が離れたことが今回の重大事故を招いたといった趣旨の会見報告が園長からありました。「30秒から1分程度」目が離れたそうですが、報道からはもっと別の問題点も疑われます。再発防止のためにも早期に検証委員会が立ち上がって事故の全貌が解明されることを願いながら、ポイントを整理したいと思います。

プール女児死亡 園児入ったまま片付けか
日テレ 2017年8月26日

さいたま市の保育園で4歳の女の子がプールで溺れ死亡した事故で、保育園が会見し、園児がプールに入ったまま備え付けの滑り台の片付けを行っていたことを明らかにした(中略)市などの調べで、保育士2人がプールに備え付けの滑り台を片付けるため、30秒から1分程度園児たちから目を離した際に事故が起きた可能性があることがわかっている。
 26日の会見で保育園側は、通常、園児をプールの外に出した後に行う滑り台の片付けを、園児が入ったまま行っていたことを明らかにした。理由について、当日は最後のプールの日で、解体のために片付けを早く行うためだったのではと説明した。

監視担当者の役割りが曖昧なままのプール実施

 まず注目せずにいられないのは、溺れた子どもが発見されるまでの時間経過です。おやつを食べ終わった子どもからプールに入り始めて、およそ10分で事故が判明しました。溺れた子どもに至っては入水してから数分しか経っていないとのことです。数分でうつ伏せで浮いていたということは、ほぼ入水してすぐに何らかのハプニングがあったことが想像されます。

3歳から5歳までの子ども19人が混合で入水しながら、10分経たずに事故が起き、4歳児が入水してすぐに溺れたにも関わらず、周りの子どもたちの叫び声でプールに目を向けるまで気づかなかったということは、午後のプールの開始時点から、子どもたちの安全を確保するという明確な意思をもった監視活動そもそもが行なわれていなかったのではないかと疑われます。

プールで保育園児死亡監視態勢などを捜査
埼玉新聞 8月25日 12時10分

これまでの警察の調べで園庭に設置されたプールでは、美空ちゃんを含む3歳から5歳の園児合わせて19人が遊んでいて、30歳と32歳の女性の保育士2人が監視にあたっていたということです。(中略)保育園によりますと、24日はプール遊びの最終日で、昼寝を終えておやつを食べ終わった園児に10分程度、プールで遊んでもらっていたということです

事故検証委員会の手で保育者の動線を明らかにしてほしい

形状が判りませんが備え付けの滑り台を片付けたわけですから、プールから外し終わった滑り台を、実際に片しに離れたのが「30秒~1分」程度であったとしても、深さが70センチから1メートル近くあったというプール壁面から滑り台を外すにあたって、少なからず保育者の意識は子どもたちに向けたものよりも、滑り台を外す作業の方へ向いていたとも考えられます。

「解体のために片付けを早く行うためだったのでは」と園長は担当保育者がプールの最中に滑り台を片付ける計画を把握していなかった様子です。しかし担当保育者2名は午後のプールを開始して10分で滑り台の片付けを試みました。開始直後から滑り台を片付けることを想定して動いたのではないでしょうか。防犯カメラによって動線の解析が進むことを願っています。

プール監視とは子どもの危機を発見し事故を回避する役割り

室内で保育することに比べると、子ども19人がプールに入った状態は重大事故が発生する危険性が大きいことは間違いありません。たとえば室内で転んでも、多くは打撲や擦り傷で済むのに対して、プールは水深が低くても転べば溺水につながります。浮力があって、波打つ水の圧力も加わって子どもの個体差に姿勢が不安定な状態が生まれてもおかしくありません。

保育施設でプール中の重大事故が続けざまに発生しています。プールだけではありませんが、特にプール実施にあたっては、子どもの最善の利益を守る保育者の職務として、人員不足や保育者の無知を理由に該当時間の保育体制が築かれないことは避けなければなりません。あらためてガイドラインの「プール活動・水遊びの際に注意すべきポイント」を以下に転記します。

  1. 監視者は監視に専念する。
  2. 監視エリア全域をくまなく監視する。
  3. 動かない子どもや不自然な動きをしている子どもを見つける。
  4. 規則的に目線を動かしながら監視する。
  5. 十分な監視体制の確保ができない場合については、プール活動の中止も選択肢とする。
  6. 時間的余裕をもってプール活動を行う。等
  • 2017年8月11日 埼玉県さいたま市 4歳児 保育所内プールで保育中に溺死
  • 2016年7月11日 栃木県那須塩原市 5歳児 保育所内プールで意識不明搬送
  • 2014年9月8日 岩手県花巻市 5歳児 河川で園外保育中に溺死
  • 2014年7月30日 京都府京都市 4歳児 保育所内プールで保育中に溺死
  • 2013年7月2日 愛知県豊橋市 4歳児 幼稚園内プールで保育中に溺死
  • 2012年8月23日 茨城県五霞町 3歳児 家庭用プールを使用して保育中に溺死
  • 2012年7月20日 愛媛県西条市 5歳児 河川で園外保育中に溺死
  • 2011年7月11日 神奈川県大和市 3歳児 幼稚園内プールで保育中に溺死
  • 2009年8月18日 島根県津和野町 5歳児 小学校プールで保育中に溺死

おやつ時間前後の保育の重大事故に学んで再発防止を

 監視活動の問題点のつぎは、今回のプール事故が発生した「お昼寝を終えたおやつ前後の時間帯」の危険性について考えてみましょう。まだ記憶に新しい福岡市の保育所の排水溝事故(2016)はお昼寝からおやつへと移行する時間帯でした。愛知県碧南市の保育所の起き抜けの窒息事故(2010)ほか、おやつ直後の時間帯もふくめて骨折や意識不明で搬送されるケースなど複数の重大事故が発生しています。安全面において手薄になりやすい時間帯といえます。

この時間帯の重大事故は、担当保育者が何かしらの作業を並行して行なっていることが共通します。排水溝事故などは、たまたま目が離れたなどとは言えないほど一部の子どもの動静が放置されていました。どこの保育施設においても時間帯に関係なく、保育者が子どもひとりひとりとじっくり向き合える環境が整うことが望まれますが、こうした重大事故事例にならい、時間帯に合わせた十分な計画と準備を重ねた保育の実践によっても事故減少を可能にします。

排水溝に頭突っ込み、1歳男児溺れる 数カ月前までふたに重し 意識不明
産経新聞 2016.11.15

14日午後2時50分ごろ、福岡市南区檜原4丁目の市認可保育所の「こばと保育園」で、この園に通う1歳7カ月の男児が園庭の排水溝に頭を突っ込んだ状態で溺れているのを保育士が見つけ、119番した。理事長は共同通信の取材に「排水溝が危険だという認識は個人的にはなかった」と答えた。男児は午後2時ごろまで1階の部屋で昼寝しており、(中略)起きてから排水溝で見つかるまでの行動は不明

保育者個人が職務上の規定を守らない場合の管理職の責任

ここまでの話だけでも、事故当日はプール最終日であったことから「焦りがあった」かどうかは別にして、担当保育者が「少しでもやりやすいようにしておこう」と午後の比較的ゆるやかな時間の撤去作業を優先し、おやつを食べ終わった子どもの過ごし方の解決と今夏最後の体験をかねて、能動的な保育計画にはない情感に基づいて、残ったプールで『あそぶことを許した』結果、通常と異なる二人体制で実施し、異年齢の子どもまでを招き入れたことが想像されます。

片付け作業について園長が把握することもなく、「やめるように言っていたが」担当保育者の独断で異年齢の子どもを一緒に入水させたとあります。教育していたのにやらなかった、やめるように言っていたというのは重大事故における管理職の言い分に共通するところです。職務上の規定が守られなかったのだとしたら、管理職が教えていた・言っていたといっても実際は相手に理解されなかった、伝わっていなかった可能性について考えていかなければなりません。

<保育園プール女児死亡>目を離した時間「1分」…滑り台片付け、監視怠る さいたまの保育園が会見
埼玉新聞 2017年8月26日

滑り台は安全面を考えて毎回園児をプールから出した後に職員が外しているが、現場の保育士2人の判断で園児をプール内に残したまま滑り台を片付けた。
園長は「解体が来るので時間を早めよう、少しでもやりやすいようにしておこうと少し焦りがあった。3人態勢でやるところを2人でやってしまった」と説明した(中略)子どもの発達状況を考えて普段は年齢の異なる子どもを同時にプールに入れないが、この時は3~5歳が一緒に遊んでいた。園長は「少しの時間だから『おいで』と言った。やめるように言っていたが、保育士2人の判断でやっていた」と話した

保育者個人の資質や使命感に頼らず組織で仕組み化する

コミュニケーション術において相手が理解できる言葉で話すことは基本中の基本です。聞く側も専門職として理解を深められる基礎知識があることが望ましいですが、「時間を割いた」、「一度言うべきことは言った」というだけで教えた、伝えたというつもりになることが、管理職と職員に限らずベテランと新人保育者だったり、正規職員とパート職員や、保育補助との関わりの中でも少なからず見受けられ、関係破たんに発展するケースも少なくありません。

さらに主任以上の組織の中でリーダー的存在ともなれば、職務上の規定は無理なく守れるように、そして保育者が必要に迫られて規定にない方法で保育を行なうような場合は、施設外から見ても納得のいく状況で実施できるようにマネジメントしていくことが求められます。保育者が委縮することなく、子どもたちが伸びやかにあそぶためにも、保育者個人の資質や使命感に偏って安全につとめるのではなく、組織一体となった仕組みを構築していきましょう。

カメラ映像に残る発見時の問題点と発生時の救命処置

「泳いでいる姿」が防犯カメラのカメラ映像に残っていたそうです。昨年事故が発生した那須塩原市ではカメラ設置が義務付けられました。全国的にも防犯を兼ねた設置が進むことが望ましいのではないかと思います。映像には午後3時25分:当該園児入水、同29分:泳ぐ姿を映像で確認。同36分:保育士が滑り台の撤去作業開始、同38分:子どもの声で振り返ったことが映っていたそうです。これまでに比べて「何があったか?」について早々に解明が進みそうです。

やはり同29分から作業開始以前に映っているものが解決の糸口のように思いますが、もしも溺れるところを子どもが見て驚いて声をあげ、保育者が駆け付けたときに「浮いていた」のであれば、危機管理的には「目を離した」ことそのものより、短時間でうつぶせ状態で失神した原因が気になります。もしも保育者が駆け付けたとき「顔全面が水没して」起き上がれずにいたというのであれば、発見してからの救命処置の時間経過に注目しなければいけないと思います。

目離した隙に溺れたか プール女児死亡、埼玉
日本経済新聞 2017/8/26

 さいたま市緑区の認可保育所「めだか保育園」のプールで女児が死亡した24日の事故で、見守っていた保育士2人が滑り台の撤去作業で目を離した隙に溺れたとみられることが26日、分かった。黛秋代園長(67)が記者会見して明らかにした(中略)
 美空ちゃんは24日午後3時25分にプールに入り、4分後には泳いでいる姿が防犯カメラの映像に映っていた。保育士2人は同36分から備え付けの滑り台を撤去する作業を開始。同38分、保育士がプールの方を振り返ると、美空ちゃんがうつぶせで浮いていた。

搬送までの人工呼吸が行なわれた前後の動きの解明に注目

プールの中にいた周りの子どもの異変を知らせる声で溺れた子どものもとに保育者が駆け付けたときには、すでにうつ伏せで浮いていたそうです。「人工呼吸などを受けた後病院に運ばれた」とあります。最近では『人工呼吸など』といった表記は珍しいなと感じました。溺水事故においては人工呼吸は望ましい行為なので喜ばしいところですが、反対に緊急通報までの経過時間やほかに何をやったのかの報告が、まだ見受けられないので気になるところです。

溺れたからと人工呼吸だけだったということはないだろうか、人工呼吸を自信もってできる人が駆け付けるまで救命処置が手つかずということがなかっただろうか。子どもをプールの外に出してから迅速に緊急通報が行なわれながらの処置が行なわれたのだろうか。もしかしたらそもそも人工呼吸をしたのは救急隊であって119番しただけだったらどうしようなんてことも想像してしまうのですが、これも事故検証委員会によって解明・報告されることを願います。

保育園児プールで溺れ死亡 業務上過失致死の疑いも視野に捜査 (埼玉県)
8/25(金) 18:22配信 テレ玉

24日午後、さいたま市緑区にある保育園のプールで、4歳の女の子がおぼれ意識不明となり25日、死亡した事故で県警は、現場を実況見分し業務上過失致死の疑いも視野に調べています。この事故は、24日午後3時半すぎさいたま市緑区大間木の「めだか保育園」でプールに入っていた園児のうち、赤沼美空ちゃん(4歳)が溺れ、意識不明の重体となったものです。県警によりますと、美空ちゃんは人工呼吸などを受けた後病院に運ばれました

現物保存の必要性と事故検証に対する期待

 まだ保育者の間の意識は薄いですが、保育施設で重大事故が発生したら緊急通報は119番のみだったとしても、死亡にいたるなどの重症度や搬送理由に問題が感じられるときは病院から所轄警察へ通報することが義務付けられています。通報を受けて地元警察の実況見分がはじまるわけですが、保育者は早期に事故検証が進むためにも現物保存の認識がなくてはなりません。

プールの重大事故では必ず水深が問題となりますが、今回も「子どもの腰ぐらいだった」と保育者の曖昧な供述だけで、はっきりしないケースがほとんどです。プール設置場所によって二次災害防止のために水を抜くなら、普段から水を入れた時点で水温を確認すると同時に水深を計って写真に残す記録づくりを今後は全国の保育施設で義務付けていく必要もあるでしょう。

早期に事故検証委員会を立ち上げ社会的損失を減らしてほしい

事故が発生した保育園は事故後に二日間休園して、週明けの28日から通常通り保育を再開する見通しとのこと。日頃から地域住民や園児の保護者からの信頼のあつい保育園であったそうですし、事故を理由にそのような保育園の保育のすべてが停止するとしたら、大きな社会的損失につながります。しかし子どもの最善の利益を守るべき保育所の機能として管理職が把握できていない体制で発生した事故だったとしたら、決して不運な事故だったとは片付けられません。

<保育園プール女児死亡>目を離した時間「1分」…滑り台片付け、監視怠る さいたまの保育園が会見
埼玉新聞 2017年8月26日

再発防止策については「まだ打ちひしがれている職員がいる。子どもの心のケアもある。保護者も心配している。どうすればいいか考えたい」と具体的に決まっていることはないとした。園は事故の影響で25、26日を休園とし、28日から再開する予定という

もし園長の言うように無意識にでも職務上の規定が守られない内情があって、子どもの大切な命が天秤にかけられたのだとしたら、今後の子どもの健やかな成長のためにもしっかりと早期に事故原因について検証されることが望ましいでしょう。今までになく瞬間的に報道が過熱した事故でしたが保育者のみなさんが、この事故を理由に安易にプールをやめずに、たのしいプールの継続を目指してあらためて保育計画を見直してくださることを願っています。

さいたま市 保育園児プール死亡事故 清水市長「市独自に調査 検証する」
テレ玉 8/31(木) 配信

清水市長は31日の定例記者会見で「今後、市で独自に調査・検証する」と語りました。(中略)事故を受けて市はこれまでに保育士を派遣して運営を支援するほか、職員から聞き取り調査をしていましたが、清水市長は31日の会見で、「今後は市で独自に調査・検証し、二度とこのような事故が起こらないようにしていきたい」と語りました。
検証は、市の社会福祉審議会の中に設置されている専門の分科会で行われ、警察の捜査状況を見ながら順次、進められるということです。

NHKさいたま放送局の取材にお応えしました

8月25日NHK「首都圏ネットワーク」内で放送済
  • この記事を書いた人
  • 最新記事

保育安全のかたち

代表:遠藤/専門:保育の安全管理・衛生管理/保育事故の対策、感染拡大の予防、医療的ケア児ほか障害児の増加など医療との関わりが深まる一方の保育の社会課題の解決にむけて、保育園看護師の業務改革ほかリスク管理が巧みな保育運営をサポート

-給食事故と溺水対策を考える
-, ,