平成27年12月の「特定教育・保育施設等における重大事故の再発防止策に関する検討会 最終取りまとめ」以来、3か月間にわたった調査研究事業検討委員会を経て、内閣府から教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドラインが公表されました。
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline/index.html#guidelines
公開されたガイドラインの【事故防止のための取組み ~施設・事業者向け~】に、再発防止のための参考例として、「誤嚥・窒息事故防止マニュアル~安全に食べるためには~(浦安市作成)」が掲載されています。その中の『窒息時の(主に気道内異物による)対応について』に対して、非公式に追記した補足事項についてお届けします。(PDFの配布は終了)
保育の安全ガイドラインの窒息事故の対応手順より
冒頭から最も大きな課題に突き当たります。窒息した瞬間は見逃していて、すでに喉(気道内)に詰まらせた状態の子どもを発見しています。喉(気道内)に詰まった異物は、判っていて口腔内を開けさせる以外に、目で見ることはできないことから、窒息した子どもを目の前にしながら、窒息(緊急事態)を発見した状況にあることに、その発見者本人が気づかない可能性が生まれます。どのようにして発見したか?を具体的にイメージすることこそが大切です。
さらに発見したとき、すでに「意識がない」状態だった場合について。意識がない場合は、仮に呼吸があったとしても、ほぼ、まともな呼吸ができていないことが想像されますので、安静にするだけでなく、即座に気道確保を行なって呼吸の変化を観察しながら、横にした状態によっては呼吸を支援・補助するための人工呼吸が必要と考えておいた方がよいでしょう。
乳児は「胸部突き上げ法」、幼児は「腹部突き上げ法」ができます
以前は、窒息した子どもであっても、腹部突き上げ法(ハイムリック法ともいう)は、お腹の中を傷つける可能性もあって危険なので、やってはいけないとされていました。今は、もっとも効果が高いことから、背中をたたく(背部叩打法)と一緒に推奨されています。
0歳児は、さすがに発育上、危険を冒してもつりあうメリットがのぞめないので、お腹を突き上げる代わりに、胸の真ん中をつきあげる「胸部突き上げ法」を行ないます。しかし、前述した腹部突き上げ法もふくめて、けっして万全な対処法ではなく、突き上げても詰まったものが取れない状況は、そのまま重大な結果を招きかねないので、窒息そのものの回避が求められます。
子どもの意識がない場合の呼吸管理について
窒息事故に限らず、なんらかの理由で子どもが失神して倒れており、呼びかけに対する反応はないが、呼吸は確認できるという出来事は、保育園においても、けっして珍しい話ではありません。その分、呼びかけに反応はないが、呼吸はしていたし、救急隊も呼んだから大丈夫だろうという、勝手な安心感が事態を悪化させた事故事例もあります。意識はないが、呼吸をしていて、生きているからこそ、救急隊がくるまでの間の応急処置で何をするか、がとても大切です。
特に子どもが衰弱して倒れたままでいると、しだいに舌根がノドをふさいで呼吸が止まってしまったり、実際は呼吸がなかったのに、呼吸があると見間違ってしまうこともあります。救急隊が到着するまで何もしない(見てもいない)ということがあってはいけません。不安を感じるほどに呼吸のペースが乱れたり、よわくなったと感じたら、気道確保や補助呼吸で、呼吸することを助ける行為も行なえるように、定期的に気道内異物の処置について訓練していきましょう。
AEDは「ショックボタンは必要ありません」のガイダンスもある
AEDの使用方法について。AEDとはガイダンスに従って、ショックボタンを押す機械ですが、適当な方法で体に取り付けても、「ショックボタンは必要ないので、心肺蘇生をつづけてください」というガイダンスが出ることも普通にあります。けっして壊れたわけではありません。
今回のように窒息事故を想定した場合、そのようなガイダンスになる可能性は高いと思われます。AED講習で、ボタンを押さないシチュエーションは、あまり練習しないと思いますが、もしもの場合も、すぐにガイダンスに反応できるような心構えをもっておきましょう。
「近いから、気づけるだろう・・・」との思い込みに注意
最後に。普段にぎやかな子どもが、今日は静かに食べていると、不思議に思って子どもの様子をのぞき込んだら、窒息した状態で、体が硬直したまま、青い顔をして、じっと座っていたという、保育現場からの報告があります。保育者のイメージほど、苦しがってさわいだりすることなく、そばにいただけでは気づけないほど、静かに窒息していて、びっくりしたそうです。
(追記 2020.9.10)
2020年9月に幼稚園で、給食に出たブドウを喉に詰まらせた児童が亡くなる痛ましい事故が発生しました。「4歳の男の子が苦しそうにしているのを女性教諭が見つけ、救急車で病院に運ばれました」、「当時は、25人の園児が幼稚園で作られた給食を一緒に食べていて、男の子の異変に気付いた教諭が応急措置を行った」(NHK)との報道がありました。
事故検証が速やかに行なわれ、報告書の公開を待つことしかできませんが、ノドに詰まらせてから、児童が苦しむ様子に気づくまでに、何分が経過してしまっていたのか、実際にどのような処置が行なわれたのか、注目したい箇所です。保育所においては配置基準が課題となってもいますが、人手の充足具合に関わらず、子どもの窒息事故の再発防止に努めていきましょう。
園児が給食のぶどうをのどに詰まらせ死亡 東京 八王子
2020年9月8日7日、東京 八王子市の幼稚園で、4歳の男の子が給食で出されたぶどうをのどに詰まらせて亡くなっていたことが分かりました。警視庁が幼稚園の関係者から話を聞いて詳しい状況を調べています。
7日午後1時ごろ、東京 八王子市の幼稚園で4歳の男の子が苦しそうにしているのを女性教諭が見つけ、救急車で病院に運ばれましたが、まもなく死亡しました。
通報を受けた警視庁が確認したところ、給食で出されたぶどうをのどに詰まらせたことによる窒息死とみられることが分かったということです。
ぶどうは直径およそ3センチで、皮をむいた状態で1人当たり3つ出されていたということです。
当時は、25人の園児が幼稚園で作られた給食を一緒に食べていて、男の子の異変に気付いた教諭が応急措置を行ったということです。