発達と保育リスクマネジメント

寝返ってうつぶせ寝だったときの呼吸確認方法を蘇生ガイドラインから考える

 2011年に入って、消防署をはじめとした普及団体の心肺蘇生法のやり方が、2010年日本版蘇生ガイドラインを土台にしたものへ更新されました。現時点の変更点は、「心肺停止かを判断する呼吸確認のやり方の変更」と、「人工呼吸と胸骨圧迫の順番の入れ替え」、そして「胸を押すテンポのアップ」と「押す深さの修正」といっていいと思います。

ここでは、この新たな呼吸の確認方法を例に、午睡中の子どもに対する呼吸確認の方法について、特に『気が付いたら子どもが寝返っていた』場合に、とにもかくにも早急に呼吸ができているかを、うつぶせのまま確認する適当な方法について考えます。

呼吸の確認方法が変更された目的

 上の写真は過去の講習の様子ですが、これまでの心肺蘇生法にあった、呼吸確認の代表的な『見て、聞いて、感じて呼吸を観察する』方法をデモンストレーションしています。倒れた子どもの口元に顔を近づけて、呼吸している様子を目で見て、呼吸音を聞いて、吐息を肌で感じて、呼吸をしているか、していないかを判断するよう努めていました。

この方法だと、倒れている人に顔を近づけたときに、あえぐような、時にはいびきをかくような感じで、肺に残った空気が口から漏れ出す現象、「死戦期呼吸」があったときに、呼吸が再開したと勘違いしやすいことから、顔を近づけることなく、胸やお腹の動きを見るだけという、息をしているかどうかを、さらに簡単に確認する方法へ変更になりました。

日経メディカル2011年2月号「トレンドビュー」(転載)
蘇生のガイドラインを変更へ心肺蘇生は胸骨圧迫からの開始が基本に

従来は呼吸を確認する際、傷病者の口元に耳を近づけ、胸部に手を置くなどして“見て、聞いて、感じて”呼吸を観察するとされていた。しかし、新ガイドラインでは胸部と腹部を見て呼吸を確認すればよい。
http://medical.nikkeibp.co.jp/ 日経メディカルオンライン

乳幼児は腹式呼吸のため呼吸確認の方法として適している

保育園や幼稚園で保育する子どもたちは、複式呼吸が優先的に行なわれている年齢なので、仮に反応がない子どもの呼吸を確認しなければならないようなときも、お腹の動きを目で見て呼吸の様子を確認するのは、とても理にかなっているといえます。

また保育現場では、寝返ったうつぶせ寝の状態で、子どもが窒息して命を失う事故が数多く起きています。気づいたらうつぶせ寝だったときに、うつぶせ寝のままでも、とにかく早く呼吸の状態を確認する方法としても、とても都合がいい方法だといえます。

コメディカルのための看護学総論 著者: 大西和子
188項 表4 年齢別による呼吸の特徴

0~2歳: 乳児の助骨は水平に走っており、呼気と吸気による胸郭の容積変化が少ない、また、呼吸筋が未発達であるので、横隔膜の運動による腹式呼吸を行っている。
2~7歳: 2歳頃になると筋肉や胸郭が発達し、肺重量も増加し、胸式呼吸が加わり、7歳ごろまでには合併型となる。

保育現場で都合のいい呼吸確認の方法

 保育現場では、日頃から頻繁に呼吸確認をする午睡時間について、顔を近づけて見る聞く、感じる方法を基本にしていることが多く、寝ている子どもの鼻先に硬く冷たいモノを近づけて、息で曇るかどうかで呼吸を確認しているケースも聴いています。

丁寧な方法ですが、子どもが寝返ってうつぶせ寝だったときに、思うように呼吸を確認できません。うつぶせ寝だったり、ましてや窒息が疑われる場面であれば仰向けにするから、鼻先に顔やモノを近づけることができるかもしれません。しかしそれでは、呼吸確認はできても、保育者が冷静さを欠いて、全体の流れの妨げになる可能性が高くなります。

保育者が冷静に呼吸確認ができる最善の方法

仰向けにすることは大切ですが、気づかずうつぶせ寝になっていたようなときに、仰向けにしてから呼吸を確認することはおススメしません。うつぶせ寝の状態で、まず呼吸の様子を確認してから、ゆっくりと体勢を入れ替えてあげることが望ましい流れです。

そのように、事故といった緊迫した状態でもない日常の行為であっても、具体的に呼吸確認をどうやってすることが適当かを考え、知識をアップデートして医療に裏付けられた方法を活用することも、保育する者としての大事な専門性のあり方だと思います。

そもそもの午睡チェック(呼吸確認)の目的とは

 うつぶせ寝による窒息事故か、SIDS疑いを争うような事故案件では、子どもが呼吸停止によって「突然死」したかのような様子(特に予兆も見られなかった子どもが、突如、息を引き取ったかのような状況)が報告されます。しかし、病院の死亡例の話ではありますが、突然死の7割には前兆があって、前兆を見逃さず行なわれる心停止前の対応が課題となっています。

一般に成人は心臓など循環器系の障害を原因として心停止になりますが、子どもは呼吸原性という呼吸障害を原因として心停止に至るので、そのまま「7割の前兆」に当てはまるとは言えません。しかし子どもに対しても、『心停止前対応』を意識する価値は大きいです。

呼吸が止まってから気づくのでは遅い理由

一般に保育を行なう日中にお昼寝をする乳幼児は、呼吸器官の発育が未成熟で、直接、気道がふさがるようなことがなくても呼吸障害を起こす可能性が、すべての子どもに付きまといます。そして乳幼児は、窒息など呼吸が止まることで命を失う事故が最も多く起きています。

呼吸が止まってしまうと、子どもの脳に影響し最後は死に至ります。そのため、完全に乳幼児の呼吸が止まってしまってからでは、保育者が心肺蘇生を行なっても、(心肺蘇生の実施は大切ですが、それとは別に)元のように子どもが回復することは厳しくなります。

午睡チェックの、やり方ではなく、あり方を見なおす

これまで、お昼寝とは子どもがぐっすり眠れる時間を確保することが最も大切なことであり、物音をたてないように意図して子どもに近づかないことも行なわれてきました。しかし、子どもを見ない、子どもに触れずに長く寝かせようとしてきたことは、子どものカラダの成長にとって最善ではないし、「止まっていたら助ける」というのも保育として望ましくありません。

人の目で見る午睡チェックで、すべての呼吸障害を見極めることはできませんが、子どもが当たり前に呼吸をしていることを、直に触れて観察しつづけることは、子どもの命の営みに触れる大切な行為と言えましょう。午睡チェックのあり方を見なおしてみましょう。

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  • 筆者紹介
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遠藤 登(安全管理研修担当)

1993年に保母資格と教諭免許を取得。幼稚園勤務等を経て保育所の園長職兼、子どもの傷病者対応を専門とした救命処置法の普及活動を開始しました。2011年お昼寝中に心肺停止した園児を救うことが叶わず現在の活動に至る。株式会社保育安全のかたち代表取締役/ 保育現場のリスクマネジメントをテーマとした書籍を執筆(単著・共著ほか)

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