噛みあとの応急手当に冷却ジェルシートはNGな訳と噛みつかせない保育のあり方

2014年8月19日

 保育中に子どもの「かみつき」があったら、可能なかぎり早く噛まれた子どもの患部を冷やすことが大切です。患部を冷やすにはアイスノンなど保冷材でもいいですが、できれば氷嚢(ヒョウノウ)がおすすめです。硬い保冷材では冷却にムラが出るのに対して、氷嚢は患部と、その周辺に対して均一に密着することで、患部の炎症をしっかり冷やすことができます。

応急手当で噛み跡を揉んだら青あざが残る理由と保育園も備えてほしい氷嚢
 子どもの噛み跡や引っ掻き傷をお迎えまでに消してしまえる手当て方法はありませんか?と今も昔もたくさんご質問いただきます。噛まれた箇所を揉んだり、噛み跡が腫れてから慌てて子どもの肌に

乳児保育担当の保育者から、ミミズ腫れや青あざを手当てする(消す)方法はないかといった質問をたくさん受けますが、青あざなどの噛み跡は、残念ながら”消す”ことはできません。噛み跡の正体は皮膚の炎症と内出血なので、噛み跡としてアザになる前に患部周辺をしっかり冷やして、患部の血流を抑制します。それで内出血が小さくなって跡が残りにくくなります。

あたりまえとなった冷却ジェルシートの使用を見直す

 保育現場では発熱や発疹、火傷や打撲の応急手当において「冷却ジェルシートの万能説」が存在します。ジェルのシートが熱を吸収してくれる、発疹を冷やすことで痒みを紛らわすことができる、火傷や打撲に対して手軽に患部を冷やすことができるといった期待と見通しから、救急箱内は冷却ジェルシートだらけです。しかし残念ながら期待される効果はありません。

冷却ジェルシート(れいきゃくジェルシート、英文名称Cooling Gel Sheet)は、蒸発熱の作用を応用して発熱時などに冷感を得たり体温を下げることを目的とした湿布状の商品。
1994年10月には小林製薬が「熱さまシート」を発売。のちにライオンの「冷えピタ」、久光製薬の「デコデコクール」などが発売されている。これらは爆発的な人気を博し、現在では日本国内のみならず海外においても広く知られる商品となった。(Wikipedia「冷却ジェルシート」)

冷却ジェルシートは、発熱した患部から熱を吸収するために各社特有のジェルを備えています。そのジェルに含まれた水分が熱を吸収・発散したり、メントールにも気化熱を奪ったりするはたらきがあるので、内因性の発熱に対する応急手当グッズとしては一定の効果が認められますが、持続性が短く、冷却効果は認められないことからも、看病する場合には適しません。

窒息事故を危惧した、安全な道具の使用方法を気にする以前の問題

保育現場で冷却ジェルシートを使ってはいけない理由としては、以前から、乳児の窒息事故の危険性が語りつがれてきました。しかし、効率よく患部を冷やすための道具としての価値を感じてきた保育者からすると、自分の身の回りで起きていない事故の心配より、そのほかのシチュエーションでの使い勝手のよさが上回って、使わない理由にはならないことが伺えます。

熱さまし用ジェル状冷却シートの使用に注意
-生後4ヶ月の男児が重篤な窒息事故-
2004年4月下旬北海道内において、発熱した生後4ヶ月の男児の額に、熱さまし用ジェル状冷却シート(以下、「冷却シート」という。)を貼り看護していた母親が、夕食の後片付けのためしばらく側を離れたのちに戻ったところ、冷却シートが男児の口と鼻を塞ぎ、窒息状態となった。(国民生活センター)

事故の防止のために道具の安全な使い方が大切です。しかし使う以上は事故をゼロにはできません。そもそも「患部を冷やす」という使用目的に対して、次項で示すように道具として不適当であるならば、使わないことがリスク管理において、もっとも望ましいと言えます。あらためて応急手当として患部を冷やす意味と、そこに必要な道具について考えてみましょう。

冷却ジェルシートは冷たく感じるだけで冷却してない

 あらためて、冷却ジェルシートを貼ってしばらくすると患部が冷たくなるのは、メントール成分が患部周辺の神経を刺激するからです。メントールとは筋肉の炎症を抑えて痛みを緩和する薬剤として湿布などにも使用されてます。メントールそのものに患部を冷却する力はなく、その炎症を抑える際の刺激によって、脳が冷やされているように感じてしまうのです。

皮膚で感じる"冷感"を増強・持続させる機構とその対応成分を発見 - 資生堂(マイナビニュース)
メントールは肌に浸透し冷感センサに結合すると、冷感センサが作動(活性化)して電気信号が流れ、神経を経て脳に伝達され「スースー」とした冷感を感じさせる。一方、揮発性のあるアルコールは、揮発するときに肌の熱も奪うため「ヒンヤリ」とした冷感を感じさせる仕組み

応急手当としての冷却で期待される役割といえば、たとえば火傷は、熱によって損傷個所の細胞が体の奥へと傷ついていくので、患部の奥まで伝わる熱を素早く冷ます必要があります。前述した、噛まれたり引っ掻かれることによるミミズ腫れは、皮膚の下の血管が切れることによる内出血が原因なので、その出血を抑えられるだけ血管を収縮させる効果が求められます。

冷却ジェルシートは「うつ熱」の一時的な応急処置に有効

残念ながら噛み跡などを冷やすにあたって、冷却ジェルシートを有効とする情報はありません。ここまでを整理すると、氷嚢(中の氷水)で患部の熱を奪ったり、冷やすことと比べるとジェルの効力は非常に小さく、同じメントール成分を含んだ湿布と比べても、子ども用の商品はメントールの量が少ない分、神経を刺激し血流や炎症を抑制する力はないと考えられます。

では、すでに購入したシートをどうしたらいいか?というと、保育施設では、常に氷の準備をしておくことが難しかったり、保冷剤を使うにも、冷凍庫に取りにいくなど準備に時間もかかります。保育現場で子どもが発熱したときなど、その準備中のつなぎとして冷却ジェルシートを活用することで、子どもの気持ちを落ち着かせるといったような使い方もいいでしょう。

以下に冷却ジェルシートの有効、無効な場面をまとめてみました
  • 【無効】噛みつき、打撲といった内出血を伴う応急手当
  • 【無効】病児保育、病後児保育として看病を行なう場合
  • 【効果的】お迎え間近の急な「うつ熱」に対する一時的な応急処置
    ※発熱から気を紛らわせる程度に考えましょう

冷えピタの応急手当とともに噛みつきを見なおす

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 保育施設において子どもの「噛みつき」とは、8月15日付の読売新聞の『かみつきの特徴と対処法』の内容にあるように、子どもが社会性や対人関係を築いていく過程の表現のひとつなので、噛むことを大人が介入して積極的に防ぐというより、子どもへの教育を行ないつつ見守りながら、「必要なことでもあるので、起きたら受けとめる」ように考えられてきました。

「かみつき」冷静に対応…言葉未発達 思い伝えられず
健やかキッズ : yomiDr./ヨミドクター
■かみつきの特徴と対処法
・かみつきは、言葉で思いをうまく伝えられない時期の表現の一つ。言葉の発達に伴い自然に収まるので心配しすぎない
・子どもが集団でいる時は、かみつきが起きないよう目配りをする
・かまれた子には、痛みを言葉にして同調しつつ、なだめる
・かみついた子には、一方的に叱るのではなく、「~がしたかったんだね」と本人の気持ちを代弁し、行為がいけないことだと伝える
(2014年8月15日 読売新聞)

しかし近年、噛まれた側の子どもの親が「なぜ、うちの子が噛まれないといけなかったのか。いじめられたんじゃないか、先生が見てくれてないんじゃないか」といった苦情が増えています。噛んだ子について、噛んでも仕方のない発達過程だと説明されることに、疑問をもっている親が増えているばかりか、保育者の間でも認識を改めようという意見が出はじめました。

噛みつきが起きる保育環境の見直しについて

1・2歳児の集団の中で発育上逃げることが難しい子どもが何度となく噛まれることがあったり、また誰が噛んでもおかしくないことが十分に判っている保育環境の中で「噛まれることは当たり前」と言ってしまえるものでしょうか。また躾けを建て前に、噛んだ側の子どもに「噛んだらダメでしょ」と詰め寄る保育者の姿についても疑問が残るところです。

ムキになって無理してでも噛みつきを防ぐことが正しいとも思いません。しかし噛みつくことが子どもの発達過程の表現方法としても、噛まれる側にとって、噛む側の事情が押し付けられているようにも感じます。防げない場合のあり方について、噛んだことと、噛まれたことを同じ土俵で語らずに現代に照らして見なおしたいと思いますが、いかがでしょうか。

書籍【保育救命】~保育者のための安心安全ガイド~

【読者の声】園で子どもたちをのびのびと遊ばせてあげたいけれど、安全面が気になってしまって、禁止ばっかりを作りがちでした。でも、ここにのっている、ハザードマップを作れば、事前に予防ができそうだし、とっても簡単なので、忙しい私たちでもできそうなので、早速やってみたいと思っています。 怪我の対処法も、チャート式で簡潔になっているのでわかりやすいです。かなりオススメですよ。【評価:★★★★★】

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遠藤 登(保育士 / 防災士)

株式会社保育安全のかたち代表取締役 / 1993年に保母資格と教諭免許を取得。幼稚園勤務等を経て保育所の園長職兼、子どもの傷病者対応を専門とした救命処置法の普及活動を開始。 【専門分野】保育防災・減災対策、保育園看護師のキャリア支援、保育事故の分析手法「チャイルドSHELモデル(c-SHEL)」の教育および、リスクマネジメント研修。著書「保育救命」~保育者のための安心安全ガイド~ほか

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