発達と保育リスクマネジメント

保育のヒヤリハットの集め方とヒヤリハットを生かした保育の事故防止の方法

 保育で、いつからか「ヒヤリハット運動」と呼ばれるものが広がり、ヒヤリハットを集めて事故防止に役立てようという盛り上がりを見せたものの、保育現場からは「ヒヤリハットが集まりません」、「集めたヒヤリハットの活用方法がわかりません」という声がなくなることがありません。その原因を解き明かしながら、対策の必要性までを考えていきます。

ヒヤリハットとは、幸い損害が発生せずに済んだニアミスのこと。子どもがケガをしそうになって、保育者が「ヒヤリ」としたり、「ハッと」肝を冷やして気づいた出来事を言い表したりしますが、目的とする保育の事故の防止につなげていくためには、『子どもにとって事故が起きる可能性のある事柄』を、日々の保育の中で見つけることこそ大切です。

実際には起こらなかったが、有害な結果を生む可能性のあった事象である。結果を除いては、実際に起こった有害事象と区別できない出来事を意味する。(ニアミスの定義:米国医学研究所報告書「患者の安全を守る」より)

保育者が報告をしていなかったから子どもは死んだ?

 書籍「死を招いた保育―ルポルタージュ上尾保育所事件の真相」で広く知られた、本棚の中で子どもが熱中症になって亡くなった事故がありました。その報告書によると、事件以前から複数の保育者が、子どもたちが本棚に入って遊んでいた姿を認識していながら、誰も見たことを元に話し合う姿勢を見せず、対策も講じていなかったと言われています。

保育施設で起きた重大事故調査および再発防止策に関する報告書のリンク先
 保育施設の運営の透明性を高め、もし深刻な事故が起きても十分な検証を行なうことができて、再発防止が叶う制度について検討する「教育・保育施設等における重大事故の再発防止策に関する検討

事故当日には、(過失認定にも至った)保育上の複数の問題点があったわけですが、その中でも、保育者の間で本棚でのあそびについて話し合われていたら、早い発見につながったり違う結果が生まれていた可能性もあったと、民亊裁判の争点のひとつとなりました。

動静把握義務を怠ったことを重大な過失と認定。(中略)「事故前にも本棚に出入りする子どもたちが目撃されていたのに、職員会議で取り上げられず、保育士間の情報共有もなかった」と、保育所全体の危機管理のあり方にも切り込んだ。
<毎日新聞:2009年12月17日配信「上尾の園児死亡:保育士の重い過失認定 市に3300万円賠償命令」>

あそびへの受け止めとは別に事故リスクを認識する大切さ

職員会議で取り上げなかった、情報共有もしなかった理由について詳しい報告はありませんが、子どもたちが楽しそうに遊んでいるという軽い認識でスルーしていた様子が想像されます。子どもたちが、一般的に想定される(本棚の)使い方以外の方法で遊ぶ姿を受け止めるか否かは、保育的な見守りにとって大事な視点であることは言うまでもありません。

ただ、一般にオモチャをふくむ製造物は、その製造時に想定された使い方に対して安全性が確保されて、ほかの使い方には負担が生じます。想定してなかったあそび方をする子どもの姿を受け止めることは大切。同時に子どもなりのあそび方は、事故が起きてもおかしくない状況でもあることに保育者が目を向けたら、見守り方も変わっていたことでしょう。

ヒヤリハットとは「子どもにとって」が最も大事

 保育をしていると子どもの行動に驚かされる出来事は山ほどあります。ベテラン保育者になれば見慣れてスルーするような、ちょっとぐらい危険な出来事に、経験の浅い保育者は「ヒヤリとしました」と、ヒヤリハットとして報告します。場合によっては、頼りないという評価が下ってしまい、結果として誰もヒヤリハットを報告しなくなる背景があります。

このように保育者を基準とした、「ヒヤリとした・ハッと肝を冷やす」などの感覚をヒヤリハットの基準にすると、感じ方には個人差があるので、ヒヤリハットの集まり方に波が生まれます。もちろんヒヤリハットの報告がないことが、そのまま「事故が起きない状況」につながれば問題はないわけですが、残念ながら見落としが生まれてしまっています。

想定外のあそび方や他園の事例もヒヤリハットと受け止める

製造業のような安全が想定されたルーティン通りの作業こそ、ヒヤリとした出来事がヒヤリハットになります。保育の事故は、不確定な行動が多い子どもとの関係性が前提にあるので、その都度、活動の安全性が保たれていることを確認することが必要です。ヒヤリを感じる前に、子どもにとっての『事故が起きる可能性』を見つけることが求められます。

想定と異なる子どものあそび方をヒヤリハットとして共有しあうほか、直接、自分の目で見たことだけでなく、ほかの保育施設で起きた事故も、自分たちの施設の同様の子どもたちに対して、事故が起きる可能性を示してくれたケースとしてヒヤリハットとして考えることもできます。「ヒヤリハットが集まらない」ということがなくなっていくことでしょう。

ヒヤリハットは溜めずに早期に情報共有する

 ヒヤリハットは溜めて、集まったものから傾向を分析して、事故防止に役立てるという考え方が一般的ですが、保育のヒヤリハットは、反対に溜めずに早々に情報共有した方が有効に生きてきます。臨時で保育に入る職員などもふくめて、「知らなかった」から防げなかったといった事故を減らし、何に対して目を離してはいけないのかが具体化されます

<共有した後の事故防止につなげるための流れ>

  1. 例:子どもが、想定されていない使い方、あそび方をしているのを発見する。
  2. みんなで継続性があるか確認する。(※継続性があれば事故に注意する)
  3. 深刻な結果につながる可能性について、いろいろな角度から問題点を話し合う。
  4. 必要に応じて目が離れてしまっているときの対策について具体的に話し合う。

ハザードマップでヒヤリハットを視覚化してPDCAを回す

共有するための方法のひとつとして、「ハザードマップ」をおススメしています。ハザードマップとは、施設を表した地図に付箋などを用いて、ヒヤリハットや事故を目に見える形に記載したものです。シフトですれ違う職員同士でも情報共有がしやすく、話を聴くだけじゃなくて視覚化されることで、課題に対して実際の行動にうつしやすくなります。

ハザードマップができたら、保育のPDCAサイクル(P「指導計画づくり」、D「活動の実行」、C「保育体制の評価」、A「保育環境の改善」)を進めます。ヒヤリハットを見つけて事故防止に生かしていただき、安全で豊かな保育が実践されることを願っています。

参考:厚労省「労働安全衛生マネジメントシステム」(OSHMS)
OSHMSは、事業者が労働者の協力の下に「計画(Plan)-実施(Do)-評価(Check)-改善(Act)」(「PDCAサイクル」といわれます)という一連の過程を定めて、継続的な安全衛生管理を自主的に進めることにより、労働災害の防止と労働者の健康増進、さらに進んで快適な職場環境を形成し、事業場の安全衛生水準の向上を図ることを目的とした安全衛生管理の仕組みです

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