「迷ったら打て」?保育施設でエピペンが打てるようになるまでの経緯

2013年1月17日

2,011年3月に厚労省が保育所におけるアレルギー対応ガイドラインを発表して、まもなく2年が経ちますが、特にエピペン(重度アレルギー反応時のアドレナリン自己注射器)の使用を巡っては、まだまだ誤った情報に振り回されているケースが散見されます。

さらに、2012年12月20日、調布市の小学校で食物アレルギーによるアナフィラキシーショックが原因と思われる状況で児童が亡くなった事故をきっかけに、アレルギー関連の医師の、迷ったら打てと言うコメントがしきりに報道されるようになりました。

エピペンが打てるガイドラインの根拠とは

 あらためて保育施設でエピペンを取り扱えるようになるまでの経緯を見ていきます。まずは「アレルギー対応ガイドライン作成検討会(第 1回)資料8(平成22年7月12日)」を参照しますが、簡潔でエピペンについての大まかな流れがとてもよく判る資料です。

1 今までの経緯
○平成21年3月2日 「救命救急処置の範囲等について」の一部改正について
(医政局指導課長通知)
アナフィラキシーショックで生命が危険な状況にある傷病者があらかじめエピペンを処方されている場合、救命救急士はエピペン使用が可能

エピペンという注射を打つこと自体は医療行為ですから、「医師法」に準じており、今も誰もが安易に打ってよいものではありません。平成21年3月2日時点では医者や患者本人と家族以外には、救命救急士のみがエピペンを打っていいことになりました。この時点では看護師であっても、病院の外で処方医の指示なくエピペンを打てることにはなっていません。

反復継続する意図がないと認められるとは

平成21年7月6日に文科省が、「アナフィラキシーショックで生命が危険な状況にある生徒(児童)が、あらかじめエピペンを処方されている場合に対して、学校の先生がエピペンを打っても大丈夫?」と、個別に厚労省に問合せをしたところ、『緊急時だし滅多にないはずの行為だから法に触れないと思うよ』という答えが返されました。

○平成21年7月6日 医政局医事課長宛に文部科学省スポーツ・青少年学校健康教育課長より「医師法第17条の解釈について」の照会
その場に居合わせた教職員が、本人が注射できない場合、本人に代わって注射することは、反復継続する意図がないと認められるため医師法違反にならない

「反復継続する意図がないと認められる」という返答によって、以下の「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」が、文部科学省から初めて示されました。このガイドラインによって、学校の先生がエピペンを打っても構わないことになりました。

自ら注射できない状況にある児童生徒に代わって、「エピペン ®」を注射することは医師法違反にはならないと考えられます。また、医師法以外の刑事・民事の責任についても、人命救助の観点からやむをえず行った行為であると認められる場合には、関係法令の規定によりその責任が問われないものと考えられます。
引用:学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン P.7

エピペンの管理と職員個人の責任について

「医師法以外の刑事・民事の責任」についても踏み込んだ記載があることで、教職員にとってエピペンを打つことで問われる可能性のある『違法性の回避』という点で大きな安心感を得ました。また保護者もエピペンを預けやすくなるポイントのひとつです。

エピペンを打つときというのは、まさに子どもの生命に関わる事態ですから、個人レベルでも、深刻な事態を招かないために、日頃から研鑽を積み重ねることが望ましく、最善を尽くすという点において責任感と覚悟をもって臨むことは大切でしょう。

児童生徒が安心して学校生活を送ることができるよう、「エピペン®」の管理について、学校・教育委員会は、保護者・本人、主治医・学校医、学校薬剤師等と十分な協議を行っておく必要があります。
 児童生徒の在校中に、学校が代わって「エピペン®」の管理を行う場合には、学校の実状に即して、主治医・学校医・学校薬剤師等の指導の下、保護者と十分に協議して、その方法を決定してください。方法の決定にあたっては、以下の事柄を関係者が確認しておくことが重要です。(引用:同ガイドライン P.68 より)

学校および保育施設職員の課題

原則は医者から直接指導を受けた親の責任の下で、十分に確認しあって学校の事情で適当にやってねといった内容に対して、学校の様子はといえば、エピペンの効果的な使用環境および、アナフィラキシー発症の予防について試行錯誤の途上にあります。

適切で組織的な取り組みもなく使命感を背負いこむだけでは、教職員一個人の枠を越えた負担を抱え込むことになって、実際には尻込みをしたり、救急活動のあとの心理的負担を恐れて、責任逃れの行動をとりかねないのは、保育施設であっても同じと言えましょう。

保育施設におけるエピペンの使用に向けて

 保育業界にとっては、ここから事態が大きく動き出します。「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」ができたことで、平成22年3月に東京都がガイドブックを発行しました。保育所におけるアレルギー対応ガイドライン発表の1年前のことです。

保育園・幼稚園・学校における食物アレルギー日常生活・緊急時対応ガイドブック
東京都福祉保健局
・プレショック状態の際は、緊急に医療機関を受診する必要がある。その際に30分以内に投与することが患者の生死を分けるといわれている。救急搬送時間を考慮し、児童施設や学校で投与が必要になる場合がある。
■エピペンの運用と管理
・保管は子ども自身が行うことが原則
・子どもが低年齢で管理上の問題等の理由により、保護者から薬の保管を求められた場合、保護者を交えて管理者と検討する必要がある。
・エピペンを児童施設や学校で管理する場合、保護者との面接時に緊急時対応を十分に認識し、「緊急時個別対応カード」を作成することが必要である。
・エピペンの使用は、子どもが行うことが原則である。

「保育園・幼稚園・学校における・・・」と一緒になっていることから勘違いしそうですが、ここでは、まだ保育士は打てません。さらに「エピペンの(保管)使用は、子どもが行うことが原則」に従い思考停止した学校関係者も多かったと聞いています。

保育所におけるアレルギー対応ガイドラインの登場

文科省がガイドラインを出したのに続いて、東京都がガイドブックを出したことで、厚労省は文科省に答えるだけで動かないのか、それとも何か動きを見せるのかと噂された矢先に、保育所におけるエピペンの使用に関する検討が以下のように始められました。

3 保育所におけるエピペンの使用について(案)
○子どもや保護者自らがエピペンを管理、接種することが基本であるが、保育所においては低年齢の子どもが自ら管理、接種することはできないため、アナフィラキシーが起こった場合、園医又は医療機関への搬送により、救急処置ができる体制をつくっておくことが必要である。
○しかしながら、ショック状態に陥った場合等の緊急時には、その場にいる保育者が接種することが必要となることがあることから、緊急時の際には、保育者が打つことも想定の上、保育所職員全員の理解と保護者、園医との十分な協議、連携のもとに保管等の体制を整える。
○また、保護者からのエピペンの管理の依頼や緊急時の対応について、確認できる書類を作成し、定期的に内容については、確認をする。

そして2,011年の3月に「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」が厚生労働省から発表されます。これによってエピペンを打てるのは救命救急士と教職員に続いて、保育所職員に限り、保育施設の保育において緊急時は打っても構わないとなりました。

エピペンが保険適用になった影響

 ここで少し、エピペンを取り巻く状況を振り返ってみましょう。エピペンは、重いアレルギー症状がいつ出るとも限らないので、処方されたら常に持ち歩く必要があります。しかし2011年秋まで、エピペンは全額自費負担でしたし、使用期限もあるため、患者家族にとってクスリ代の負担は、けっして小さなものではありませんでした。

また、医療器具ということもあって誰でも打てるわけではなかったことから、学校や保育園では可能な限り、アレルギー反応の出る物質から子どもを遠ざけることで予防し、家族と過ごす間の「万が一のとき」に備えるためにエピペンをもつご家庭が一般的でした。

エピペン:普及に弾み アナフィラキシー緊急治療薬、保険適用
エピペンの保険適用で負担は原則3割で済み、自治体の乳幼児医療証があれば無料にもなる。海老澤医師は「全額自費だと諦める人もいた。高価なために消極的だった医師も処方しやすくなるのではないか」と評価する。 毎日.jp

保険の適用でエピペン処方数も預かりのニーズも増える

ガイドラインが出た当初といえば、もともと医療行為について強い嫌悪感を隠そうともしない保育業界では、「私たちがエピペンなんて預からなくても問題ない。それが子どものためだから」といった、根拠は乏しいが強気の意見が散見されていました。

しかし2005年以降、食物アレルギーの重症化傾向に対して、エピペンは年々早めに処方される傾向にありました。さらに保険適用による金銭負担の軽減から、処方を望む家庭が一層増え、今後ますます保育園での預かりの依頼も増えることが予想されています。

出典:日本小児アレルギー学会から「一般向けエピペン®の適応」
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代表:遠藤/専門:保育の安全管理・衛生管理/保育事故の対策、感染拡大の予防、医療的ケア児ほか障害児の増加など医療との関わりが深まる一方の保育の社会課題の解決にむけて、保育園看護師の業務改革ほかリスク管理が巧みな保育運営をサポート

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