保育の事故報道と再発防止策

プールあそびに”安全な水深”がないわけ。保育のリスクとハザードの考え方

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 「子どもの命を守らないといけない」、保育現場からはそんなメッセージが聴こえる反面、「安全管理は保育を乏しいものにする」とのマイナスイメージも。そこには、子どもの命を守ることも、ゆたかな保育をすることも、どちらも大事だけれど、具体的にどのように両立させていけばいいのかが判らないという、ジレンマに陥った苦しさも見えてきます。

解決するための安全管理の考え方に、あそびにおける「学びのリスク」と「子どもだけでは危険回避が不可能なハザード」があることはご存知でしょう。国交省の「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」にある『遊びが果たす役割』を通じてとても大事な視点ですが、教育と養護の場でもある保育施設では、別の「リスクとハザード」を知ることも必要です

リスクとハザードの定義
子どもの遊びに内在する危険性が遊びの価値のひとつでもあることから,事故の回避能力を育む危険性あるいは子どもが判断可能な危険性であるリスクと,事故につながる危険性あるいは子どもが判断不可能な危険性であるハザードとに区分する
出典「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」(解説版)

プールあそびの事故にみる保育者の願いと潜む危険

 2016年も、全国でプールあそびがはじまった7月早々に、保育施設のプールで子どもが溺れて意識不明に陥った重大事故が起きました。那須塩原市は、プール事故の検証委員会を設置して、溺水にいたった経緯を検証しはじめたとのことです。報告公開が待たれます。

事故は11日午後1時すぎに発生。年長児33人に対し、担当保育教諭2人が事故発覚までの約10分間、プールサイドで監視に当たっていた。プールは片側の底が深くなっている形状で、女児は水深63センチ付近で溺れていたという。
下野新聞 7月22日 朝刊

プール事故対応についての研修を行なっていると、毎回「●歳児には何センチの水深が安全ですか?」というご質問をいただきます。今回、事故が起きたプールも、水深は53~66センチあったそうですが、特に5歳児、6歳児が相手になると、保育者は少なくない水嵩で、存分にあそばせてあげたいという心理がはたらくことが、質問からもうかがえます。

プールの深さがもたらすメリットとデメリット

子どもの運動能力の向上からも泳げるようになることを目指したり、水の浮力や抵抗というものもふくめて、カラダ全体で水に触れて「知覚の発達や概念(※)」を形成して、その困難も自ら克服する力をつけてほしいという願いのようなものが、子どもの年齢が上がるにつれて水深を深くしたい、プールあそびに関する指導計画のねらいに透けて見えます。

(※)遊びが果たす役割
1.遊びは、子どもに対して楽しさを与えるだけではなく、運動能力を高め、知覚の発達や概念形成、言語の獲得を助け、社会性や創造力などを養う機会を提供することによって、子どもの身体的、精神的、社会的発達などを促すものである。
2.遊びは、子どもの心身の発育発達段階に応じて、自らの限界に挑戦するものであり、子どもは、その挑戦を通して危険に関する予知能力や事故の回避能力など安全に関する身体能力などを高めることができる。
出典「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」(解説版)

しかし文部科学省の学校保健統計調査によると、5歳児(女児)の平均身長は「109.4センチ」、また社団法人人間生活工学研究センターの「身体特性データベース」によると、頭高の平均は約20cmなので、余裕がある場合でも水深60cmの水面は前胸部あたりにきます。子どもにすると水の抵抗も大きく、子ども誰もが回避可能な状態とは言えません。

もうひとつのリスクとハザードの定義

 「学びのリスクとその他のハザード」は、その区別を保育者がうまくつけられないために、子どもに対する禁止事項が増えやすかったり、反対に危険を感じていても期待せずにいられないあそびの価値を優先するあまりに、一部で事故が起きても立ち止まれないことも多くて保育に適しません。社会問題にもなった組体操の巨大ピラミッド化は参考になると思います。

ほか過去には、20センチの水深で溺水事故が起きており、水深を決めるのは簡単ではありません。充実したプールあそびの実施のためにも何かほかの安全基準はないでしょうか。実は「リスクとハザード」は別に国際規格があって、リスクとは、ハザード(危害の潜在的な源)が実際に危害をおよぼすかどうかの可能性のことだというように定められています。

リスクとハザードの定義
3.2リスク (risk) 危害の発生確率及びその危害の程度の組合せ。
3.3危害 (harm) 人の受ける身体的傷害若しくは健康傷害,
3.4 危険事象 (harmful event) 危険状態から結果として危害に至る出来事。
3.5 ハザード (hazard) 危害の潜在的な源。
出典「JIS Z 8051:2015 安全側面―規格への導入指針」

3つのハザード「環境要因」「子ども要因」「保育者要因」

事故発生を高める条件ともいえるハザードは、保育を構成する上で大きく3つに分けて考えます。ひとつは「環境要因」。ふたつ目は業務過失にもつながる「保育者要因」。3つ目は、対象となる児童の発達・発育差や疾病といった「子ども要因」です。特に養護の観点からも「子ども要因」の除外はできないため、その計画性と保育者の援助が重要になります。

子ども要因の除外ができないとは、たとえば遊園地ではアトラクションの内容に応じて、規定の身長に満たない子どもや、注意喚起を理解できない年齢の子どもの乗車などについて、初めからルールを設けて除外することで安全性を維持しています。それに比べると、保育にそのようなルールを設けることは許されていませんし、保育内容が危害を助長しても問題です。

リスクから3つのハザードを考える

 クッキング保育を計画する場合、包丁の使用をリスクかハザードかだけで考えてはいけません。実際に刃物の「刃の部分」に子どもが触れて、切れてケガをするに至る可能性(リスク)のある状況にともなった、3つのハザードから対策を考えます。刃物がむき出しに置かれた調理室、クッキングに浮かれて、ざわついた子どもや時間に追われた保育者など。

子どもがざわつかないように強制したり、刃物を正しく扱わせるより、ざわついても、使用を誤っても大丈夫なように準備を整えます。刃が適切に閉じられていればケガはしませんし、ざわついてから落ち着かせるのではなく、ゆったりと進められるように段取りをすることで、使用を誤ることが減ります。包丁だけを見ていては、けっして安全と豊かさは築けません

プールあそびに安全な水深がないわけ

残念ですが絶対に安全な水深もありません。子どもがプールで溺れて、体勢を立て直せずに呼吸困難に至る可能性について考えてみましょう。プールの水嵩に関係なく、泳げる子どもであっても足をとられた拍子にパニックになって溺れることがあります。子どもにとって活動時間が長すぎることで、疲労がたまって普段以上に思うように動けずに溺れることがあります。

価値ある活動だからリスクをとるというのは、子どものためでしょうか。子どもにとって価値ある活動を行なうからこそ、子どものためにリスクが低くなるように、3つのハザードに対して具体的な対策を講じることが求められます。子どもの発達に対する専門性をもつ保育者として、これをヒントに安全でゆたかな保育、やりがいのある保育を実践してください。

「スゴいい保育」に掲載された豊かな保育を実現するリスクコントロールについて
 保育のいまの声と必要な未来を伝えるサイト「スゴいい保育」の中の、「シンカする保育(「深化」と「進化」を続ける保育の今をさぐる)」の一番最初の記事として、安全と豊かな保育についてま

栃木県那須塩原市は21日、同市の認定こども園のプールで、水遊びをしていた女児(5)が溺れ、意識不明の重体になったと発表した。同市は学識経験者らによる検証委員会を設置して事故原因を究明する。

同園などによると、11日午後1時すぎから職員2人が見守る中、園児33人がプールで水遊びをしていた。約10分後、水中で女児がうつぶせの状態で浮いているのを職員が発見。職員が人工呼吸と心臓マッサージを繰り返し、呼吸が回復したが、意識は戻っていない。

 プールは縦9・5メートル、横5・5メートル、水深は53~66センチ。女児の身長は約110センチだった。男性園長(50)は「子供たちの命を預かる施設で事故が起き、責任を感じている。今後二度と起きないよう対策を進めたい」と話した。

同市は月内にも外部委員で構成する検証委員会を設置し、事故の原因を調査、再発防止策をまとめる。
産経ニュース 2016.7.22

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